「うたつかい」のこと(短歌同人誌)

◇2013.02.09◇

空っぽでよかったいつか充たされて溢れる日々のしあわせを知る
(嶋田さくらこ/短歌なzine「うたつかい」第3号巻頭歌)

Web歌人たちの間で絶大な人気を誇り、毎号100人以上の投稿者がある短歌同人誌「うたつかい」。
嶋田さくらこさんは同誌の編集長を務めておられ、毎号巻頭歌を書かれています。
編集長様だからゴマをするわけではけっしてなく(^^; この歌には本当に心を鷲づかみにされました。

私の好きな寓話で、「ビン入りのキャンディーがビンの半分ぐらい残っているのを見て、『もう半分しかない』と思う人と、『まだ半分もある』と思う人がいる」(「ブッタとシッタカブッタ」/小泉吉宏)という話があります。つまり物事のネガポジはその人の心しだい…ということなのですが、掲載歌はこれでいけば究極のポジティブ。なにしろ「空っぽでよかった」なのです。もう冊子の後のページが全部白紙でも悔いはないと思った、感動の巻頭歌でした。

うたつかい」のことについて。
同誌2月号に投稿させて頂いたのを機に、これまでのバックナンバーを読んでみたくなって購入しました。
「うたつかい」編集部は「(募集内容に沿ってさえいれば)誰がどんな短歌を投稿してきても全て掲載する」という方針を貫いておられ、はじめこれを知った時は「えー?それじゃ内容がまとまらんやろ…」と正直思いました。
だって100人以上投稿者がいて、年齢も歌のスタンスもバラバラだろうし、そんなゴッタ煮みたいので大丈夫かいな?と思いながら、届いたバックナンバーを読んでみたのですが…

まとまっては、いませんでした。年齢も歌のスタンスもバラバラでした。でも。でもでも。
「まとまってなくて何が悪いんじゃあああこれおもろいわわわfsjきゃ・9q;vffzj;ぐぁtvj!!」みたいな、言語中枢が盛大にバグるくらいの感動に襲われました。こういうのが読みたかったんだ。心底そう思いました。
もし一定の選歌基準があれば切って捨てられていた迷作とか珍作とか、そういうのがごっそり。AさんにはゴミでもBさんには宝、みたいなことが歌の世界にもあると常々感じていましたが、まさにそういう歌がてんこ盛りでした。(王道的にうまい歌ももちろんありますが、全体的な雰囲気としてね ^^;)
そう、例えて言うなら「掘り出し物市」。きらびやかだけど買うものがないデパートと違って、ゴチャゴチャだけど一周すれば必ずめっけもんがある。そんな活気にあふれた「うたつかい」を、今後も注目していこうと思います。

あ、選歌をしている本や投稿サイトがダメだっていうんじゃ、けっしてなくて。ただ選者というのは、上記の例えでいえばお店の店主であり、店の品揃えに店主の見識や審美眼が如実に現れる、キビシイ商売(?)だと改めて思いました。売れないのは世に良い品がないからじゃなく、店主の眼が曇ってるだけ。その点、作る腕も読む眼力も超一流の田中ましろさんとか、ホント尊敬致します。

え? お ま え は ど う な ん だ ? って?
いやあのその、品は一級品を揃えているつもりなんですが(^^; 店の看板とか、商品につけてる説明書きがですね、なんかこう商品の魅力を削ぎまくってイマイチ売れなくて、どさくさに紛れて店主の手作り品とか置いたらもっと売れなくなっちゃって、いやはやあははははははははははははははは(壊れた)

◇2013.04.02◇

【短歌誌「うたつかい」2013年2月号より】
子の髪をバスタオルでクシャクシャに拭く CMの撮影かと疑う
(葵の助)
案ずるより産むが易しとか言った奴今すぐここに来て土下座しろ
(さち)
おめでとう(きっとわたしじゃ)しあわせに(できない)なって(わかっていたの)
(嵯野みどりは)

全国の歌詠みたちが集う短歌なzine(雑誌)「うたつかい」の2月号が届きました。
今号の投稿歌人はなんと124人!はちきれそうに面白い歌が詰まっております。
勝手ながら、3首ピックアップさせて頂きました。3首どころか30首、いやもっと…と載せたい勢いですが、Web上に第2の「うたつかい」を出現させかねないので、血涙を流して3首に絞りました。4首目はきっとあなたの歌だったはず。(うわぁ八方美人な発言)

葵の助さんの歌は、子どものいない私にもすごーく分かる(^-^)こういう小さな幸せを詠める人になりたいな。

さちさんの歌は出産の歌。なんかもう、男でごめんなさい。お疲れさま&おめでとうございます。
5首詠のラストも素敵でした。

嵯野みどりはさんの歌は、大好きな人の結婚式。今宵は朝まで呑みあかしましょう(;-;)

このように色々な世代の方が色々なテーマで素敵な歌を繰り出している「うたつかい」。
読みたくなったあなたは今すぐバックナンバーを入手入手!「うたつかい」いつ読むの?今で(略)

あと個人的には、連載「短歌と人」で牛隆佑さんがゲストだったことに感涙。やっぱりみんな「うしらば」なんだ!

◇2013.06.06◇

【短歌誌「うたつかい」2013年4月号より3首選!】
書き置きに「フォッサマグナを見に行く」と残して蒸発したい日もある
(瀧音幸司)
恋人じゃなくていいのに ただ「チオ!」に「ビタ!」って返してほしいだけだよ
(山田水玉)
たったひとり欲しいと言ってくれるなら最高速で輪転機まわせ
(柳原恵津子)

泣く子も読んじゃう短歌なzine(雑誌)「うたつかい」の4月号が届きました!
今回も投稿歌人がまた増えて128人!700首以上の中から断腸の思いで3首選です。

瀧音幸司さんの歌は、「フォッサマグナ」のカタカナの迫力にただただ圧倒されまくり。
ちなみに、文系一直線の湯呑には「フォッサマグナ」はなんとなく火口からキツネがどっかんどっかん吹き出してるお祭りみたいなイメージです。

山田水玉さんの歌、もーもーもー、こういうの大好き。菅野美穂大好き。違う。
「返してほしいだけだよ」の無理して強がってる感が。下くちびる突き出した感じが。菅野美穂の。

柳原恵津子さんの歌、ぶんまわせえええ!!!たったひとりのために!!!愛!!!

…空き家歌会でかなり論理的な読みをしたので、今回はフィーリング重視で選びました。
(あれのどこが論理的なんだっていうご意見には耳をふさいでアーアーアー)
一目惚れでいいんだよ!理由なんざあとから追っかけてくるんだよ!いいからつきあっちゃえよ!(?)

…あと空き家メンバーの歌がやっぱりビンビンきたので、ここには載せないけどそれぞれのページに追加。
むしたけさん、まひろさん。牛隆佑さんもすごくよかったけど既に当サイト掲載数が10首超えの引用しすぎなので自重。うしらば。それとじゃこさん(やはり10首超え)の作風がえらい変わりようで、師匠ぼくもその境地に連れてって下さい。
あーまた行きたいなあ空き家。完全に道順忘れてしまった空き家。人生の路頭に迷ったらふっと目の前に現れそうな空き家。(すっかり空き家の話になったところで、以上うたつかい4月号レビューでした!)

◇2014.03.02◇

【短歌誌「うたつかい」2014年1月号より5首選!】
花びらという花びらを踏みしだく私だけしか来なかった道
(風橋平)
三日月の欠けてるほうに目を凝らすわかりあえないままの夕暮れ
(香村かな)
ぷわぷわの女子のあたまに乗っかったマルは燃えないけど燃やすゴミ
(じゃこ)
黒塗りのトレイに七味がこぼれてる そうか君は震えてたのか
(たた)
胸の隙間に何を入れよう本棚に返し忘れた本立てながら
(小林ちい)

もうすっかりおなじみ、100人以上の歌人が集う短歌誌「うたつかい」の1月号が発行されました。今回も常連さん新人さん入り乱れる読みごたえたっぷりの内容で、3首選では選びきれないので5首選しました(^-^)

今回はたまたま、私が選んだ歌が「喪失」「不在」「〜ない」といったテーマのものが多く、なんだか「ないないのうた」になってしまいました(^^; ええここはとってもポジティブなサイトですとも。

花びらという花びらを踏みしだく私だけしか来なかった道 (風橋平)

こっ個人的にめっちゃ分かるわー(;o;) (いきなり批評をブン投げる湯呑さん)
きっと価値がある、と信じて進んできた道が、結局は幻に終わってしまった。ふり返っても誰もいなかった。負の感情にまかせて、これまでの成果を踏みしだく。でもそれを「花びら」と表現するところが…(´;ω;`)ブワッ
花びらに敷き詰められた道を、踏みしめながら戻っていく。その美しい光景が想起され、悲しい歌でありながら、どこか救いがあるように思います。

三日月の欠けてるほうに目を凝らすわかりあえないままの夕暮れ (香村かな)

見えないけれど、それはきっとあるはずなんだ。わかりあえないけど、あなたは優しい人のはずなんだ。
夜になってしまう前に、今一度、固くそう信じる。
―― 夕暮れの寂しい光景と心情がきれいにリンクした、切なさあふれる秀歌です。
もうなんか最近すっかり香村ファンの湯呑です(^^; 9月号の歌も良かったです。

ぷわぷわの女子のあたまに乗っかったマルは燃えないけど燃やすゴミ (じゃこ)

「燃えないけど燃やす」に強い意志が感じられて良い(^^; 無理から燃やすのね。すっごい煙でそう。
「あたまに乗っかったマル」が何なのか分かりませんが、「ぷわぷわ」の「ぷ」のように、半濁音の○のことかなーと思いました。半濁音って女子っぽいですよね。きゃぴきゃぴとか、きゃりーぱみゅぱみゅとか。

黒塗りのトレイに七味がこぼれてる そうか君は震えてたのか (たた)

黒塗りのトレイにこぼれる真っ赤な七味。鮮やかなコントラストで、しかし美しいというよりは不穏で痛々しい感じが、後半にうまくつながっています。
色彩感覚の見事さ、そして、「君」が直接描写されないことで、逆により生々しい表現になるという手法。
ううううまいなあたたさん。ギリギリギリ(歯ぎしり)

胸の隙間に何を入れよう本棚に返し忘れた本立てながら (小林ちい)

こちらは今号のテーマ詠「本」の中の一首。別れた恋人に借りて返せなかった本を、自室の本棚に収める。恋人の家の本棚にあるであろう一冊分の隙間を思い、自身の胸に空いた隙間を思う。
切ない切ない失恋歌なのです。借りパク懺悔の歌かな?と一瞬思った湯呑さんは死刑です。

この他にも、牛隆佑さんの連作と山田水玉さんの連作が、どちらも抱腹絶倒かつそれだけにとどまらない深みがあって、素敵でした。これらはぜひ本誌で読むべし。

あと今回1月号は、テーマ詠のテーマが「本」ということで、表紙・裏表紙ともに本棚のイラストが描かれているのですが(作・こはぎさん)、裏表紙のこいつ↓のくたびれ具合といい目の感じといい、なんかもう泣けてくるほど好きなのは私だけでしょうか…。