山崎方代(やまざき ほうだい)さんの短歌

こんなにも湯呑茶碗はあたたかくしどろもどろに吾はおるなり
(山崎方代/「左右口」より)

紹介歌人の中でとびぬけて「昔の人」である山崎方代さん(大正3年〜昭和60年)。 でも現代においてもたくさんのファンがいる、時代を超えて愛される歌人です。 この歌、湯呑茶碗を出したのは恋人とも母ともとれますが、何か失敗をやらかした自分に、 何も尋ねずにただ、温かい湯気の立つ湯呑茶碗をそっと出してくれる、愛情の深さが感じられます。何も訊かれていないからこそ、 かえってしどろもどろになってしまう方代さん。限りなく優しい光景がここにあります。

一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております
(山崎方代/「こおろぎ」より)

方代さんの、目の覚めるようなきれいな歌。冬のくすんだ景色の中で、そこだけが赤く鮮やかな南天の実。 そんな南天の実のような、美しい女性だったのでしょう。方代さんは生涯独身であり、そのことを知って読むと切ない歌でもあります。

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