短杯2014

◇2014.6.22◇

【「短杯2014」 テーマ「友」より10首!】
旧友と私を言い切ったあなたへP.S.いちごが実を付けました
(いけ)
1時間やったら次は岡くんちいって岡くんちの1時間
(山本まとも)
東京のことばで話すクボッチと食べるケーキは甘さひかえめ
(遊糸)
金沢の友から電話来る時にわたし必ず何か茹でてる
(工藤玲音)
交換の相手が居ない六月の教室 床へ降る玉子焼き
(チーム「ふえるわかめ(有)ネガティ部逝くとな」のチーム短歌)
長すぎるポテトみつけて永遠に笑えてしまうマクドナルドだ
(迂回)
擬態するだけが友ではないのだと古着を売った姉の手に風
(工藤瑞樹)
遊ばれてちいさく燃えるあしたからなくしてしまうおんな友だち
(いないずみ。)
絶交を出来る他人は在りもせずまだあたたかい教科書の灰
(中森つん)
海岸に砂漠に雨に駆けだしてお前は世界中が友だち
(牛隆佑)

連歌の花道」「月の歌会」「うたの日」など短歌イベントを次々繰り出し、ツイッター短歌クラスタや都都逸クラスタの間で絶大な支持を受けている凄腕プランナー「のの」さん。 そんなののさんが、この梅雨のジメジメを振り払うようなステキな企画をぶちかましてくれました。
チーム対抗短歌戦「短杯(タンカップ)2014」。4人以上のチームを組み、各メンバーの短歌の他に、チーム短歌も一首用意して戦う、かつてなかった短歌団体戦。短歌の共通テーマは「友」。(すばらしいセンスだ!)
メンバーを募集し、チーム名を決め、そしてチーム短歌を決める中で、否が応でも盛り上がっていく大会気分。わたくし湯呑も参加し、思いっきり楽しませて頂きました!!(≧∀≦)  →大会総合結果はこちら
そして優れた「友」の歌をたくさん収穫できました。以下、本戦で私が投票した短歌十首を紹介していきます。

旧友と私を言い切ったあなたへP.S.いちごが実を付けました (いけ)

一番好きな歌でした。あまりに好きすぎて「この短歌が切ない2014 (;o;)」というよく分からない評をつけて、ひいきの引き倒しにしてしまったかも(・・;)作者のいけさん、全力でごめんなさい。(あんまりにもまっすぐな強い悲しみが読めたので、解釈をつけるのが野暮な気がしたのです)
旧友、つまり今は友ではないと言い切られてしまった主体。「絶交」などより何倍もひどい、一方的で、罪悪感のカケラもない断絶。なのに主体はまだ「あなた」を思慕し、青いいちごの実に自分をなぞらえて、私もいつか熟するから、あなたと同じステージに立って、再び友だちになれるよう頑張るから、と届かない呼びかけを懸命に続けている。
いちごは未熟な自分の象徴であるとともに、そこに内包する赤い赤い純粋な思慕が感じられて、えっと、もう、なんていうか、この短歌が切ない2014 (;o;)

1時間やったら次は岡くんちいって岡くんちの1時間 (山本まとも)

ネタ部門(そんなん無いけど)ダントツ一等賞でした。
「友」のお題でまさかの「ファミコンは1日1時間」ネタ。31文字に笑いも郷愁も詰まっていてすばらしすぎます。さすがまともさん。
こういうなぞなぞみたいな歌を私は「アハ体験短歌」と呼んでいますが、「?→!」という、分かった時の快感がたまりませんよね。私も作ってみたいんですが、私が作ると謎が迷宮入りで終わることが多い…(>_<)
あとこの歌で地味に巧いのが「岡くん」という名前ですね。ありそうな二字姓で、でも特定の芸能人などを思わせない没個性。谷くんや原くんでは雑念が混ざる。こういう工夫が上位に入る人の技なんだなあ…(単にまともさんのリアル友人の名前だったらどうしよう)

東京のことばで話すクボッチと食べるケーキは甘さひかえめ (遊糸)

クボッチっていうあだ名が絶妙ですね(^-^)
ど田舎で一緒に遊び回ったスポーツ刈り少年が、いつの間にかアーバンな男になってしまって、土産にお上品なケーキなんか買ってきやがった。お前ばあちゃんのコテコテに甘いおはぎが好きやったんちゃうんか。お前なんか、お前なんかもうクボッチとちゃう!
(…というクボッチストーリーを評に延々と書いたのですが、他の評者さんを見るとクボッチ女性説が優勢で、そう言われるとそう見えてきてあああああああ)

金沢の友から電話来る時にわたし必ず何か茹でてる (工藤玲音)

工藤玲音さんのこの歌が、短杯2014の得票第1位に輝いた最優秀歌でした。
ありふれた友だちあるあるネタにポンと「金沢」という具体が入ることで、リアリティーというか物語性というか、ブワッと色彩がつく感じ。でも描かれる情景はけして派手でなく、ほのぼのと穏やかでやわらかくて、年齢性別越えて幅広い読者層にウケたのもうなずけます。
この歌もよく見るといろいろ工夫があって、「わたし」のひらがなとか、あと「茹でてる」が秀逸ですね。これが焼いたり炒めたりだと歌のやわらかさが台無し。「金沢」もちょうどいいやわらかさですね。「大阪」や「東京」だと趣旨変わりますね。そのへんに力量を感じます。って工藤玲音さんのリアル友人が金沢にいたら(ry

交換の相手が居ない六月の教室 床へ降る玉子焼き (ふえるわかめ(有)ネガティ部逝くとな)

一緒にお弁当を食べる友だちがいない歌ですね。…と私はすぐ分かったんですが、他の評では「交換?相手?」と、歌意を取りかねている方もわりとおられました。これはあれですか一種の踏み絵というやつですかうんぼく学生時代あんまし友だちいな(ry
…空想の友だちのお弁当箱に玉子焼きを差し出して、でももちろん実際はいないわけだから落ちていく玉子焼き。「降る」のスローモーション感が切なさ倍増ですね。六月の雨、さらには涙ともかかっているのでしょう。周りにはたくさん人がいるのに、いや、いるからこそ、孤独。もうなんだか手に取るように分かるんですけど何か?

長すぎるポテトみつけて永遠に笑えてしまうマクドナルドだ (迂回)

「友」という主題を最も的確に描いた作品だと思いました。こういうしょーもないことで爆笑しあえるのが友ですよね。(と、友のいない人が申しております)
「屁をひっておかしくもなし独り者」という有名な古川柳(作者不詳、江戸時代頃)がありますが、今回のポテトの歌はこれと同じ意味のことを逆の視点から言っていて、でもポテトの方がポジティブだし下ネタじゃないし、いっそこちらが後世に残ってほしいなあ、と思うぐらい良い歌でした(^-^)

擬態するだけが友ではないのだと古着を売った姉の手に風 (工藤瑞樹)

擬態とは、昆虫などが身を守るために木や石と同じ色になって風景に溶け込むこと。
仲間外れにならないように、みんなと同じ格好をして、同じテレビ番組を見て…誰にも経験があることですよね。特に女性はそういうの大人になってもある感じで、たいへんだなあと思ったりします。(男はわりと中二頃から徐々に独自の道を歩む気がする。歩み過ぎて病と呼ばれる奴もいる)
この「姉」はそんな保身のための見せかけの友情についに嫌気がさして、仲良しの象徴である服を売り払うことにしたのでしょう。代償はけして小さくないけど、でも、自分で決めたこと。本当に着たい服を着て、本当にやりたいことをやる。もしかしたらいつか、それを分かってくれる真の友が見つかるかもしれない。冷たくも爽やかな「風」が、心情を見事に表現して秀逸だと思います。

遊ばれてちいさく燃えるあしたからなくしてしまうおんな友だち (いないずみ。)

女友達の彼氏(夫?)を奪った略奪愛ですね。いや「遊ばれて」だから誘惑してきたのは彼氏の方か。いずれにせよ、友情が壊れることを覚悟しての一線越え。「おんな」のひらがながめっちゃ怖いよう(^^;
…描かれていることは社会通念上好ましいことではありませんが(もちろんフィクションだと思ってますよ)、私はこの歌に投票しました。個人的に、短歌の選歌というのは歌の主義主張ではなく、あくまで表現の巧拙のみを見るようにしたいと考えています(とはいえ、それとこれはなかなか分離できなかったりもするんですけどね…)。この歌は情念の強さが実にうまく表現されていると思いました。なんというかもう、ザ・いないずみ。って感じ!(作者発表前から確信していた^^;)

絶交を出来る他人は在りもせずまだあたたかい教科書の灰 (中森つん)

絶交だ!と叫ぶためにはまず友だちでなければならない、という論理に心を突かれました。これもまた、友だちのいない歌ですね…(ああ大好きさこういう歌)
「教科書の灰」、私は学校を卒業して、友だちのいなかった学生生活を悔やみながら教科書を燃やしているのだと思ったのですが、短杯後のご本人のコメントによるともっと壮絶なことらしい…(ToT)
ポジティブサイトの主としては、「まだあたたかい」に無理やりポジティブを見出したいところ。まだあたたかいんですよ!学生生活なんて居酒屋のつき出しですよ!(もはや歌評でもなんでもないソウルの叫び)

海岸に砂漠に雨に駆けだしてお前は世界中が友だち (牛隆佑)

ε=ε=ε=\(≧∀≦)/ ワァァァァァァァイ!!!
…みたいな。子どもか、あるいは犬とか。屈託がなくてめっちゃかわいらしい感じ。
「砂漠」が入ることでワールドワイドな雰囲気がうまく出されていますね。世界中どこへ行っても、好奇心があれば無敵。突き抜ける爽やかさがすばらしいです。
それにしてもこれがあの牛隆佑さんの歌だなんて…湯呑プロファイリングでは作者は30〜40代の女性でした。(絶対刑事になれないタイプの湯呑さん)

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100名を超える参加者が集い、大成功に終わったネットイベント「短杯2014」。その大ヒットは主宰・ののさんの、優れた企画運営能力の賜物だと思います。誰でも参加しやすいようによく練られたルール設定、絶妙バランスの得点配分、そしてきめ細かい告知と迅速なFAQ対応、チームが組めないぼっち歌人へのフォロー(^^; …実にすばらしい運営ぶりでした。
そして最後に行われた閉会式の、この特設ページの凝りっぷりよ…(ToT)感涙!!
もうすっかりののさんファンになりました。最高のイベントを、本当にありがとうございました!これからも楽しみにしております!!(でもまずはごゆっくりお休みくださいm(_ _)m)

【おまけ:「チーム急須(信楽焼風)」の提出歌】
二十年経ってまる子が理解する亡き友蔵の心の俳句
(チーム短歌/作者:香村かな)
駄菓子屋でひく当たりくじ鐘の音が告げる僕らの夏のはじまり
(香村かな)
繰り返し不正はないと主張する渡辺麻友の勝利会見
(たた)
右側の頬だけあがる不器用な笑顔変わってなくてよかった
(なるなる)
「逃げようと思う」子を抱く友が泣く 切り取り線は目には見えない
(綿菓子)
お前より俺のが巧いと殴られて席を奪われた特攻機
(西村湯呑)

わたくし湯呑は上記のチームで参戦しました。私の、「友だち少ないんで雑用しますんで誰かチーム組んでください(;o;)」という、ミもフタもない呼びかけに応じてくださった4名の勇士に大感謝(;o;)
戦績は、特に香村かなさん作のチーム短歌が大ブレイクして、22チーム中7位という大健闘の結果を残すことができました。メンバーのソロ短歌も、他チームだったら投票していたであろう力作ばかり。すばらしいチームでした!ありがとうございました!!(身内褒めになるので解釈は省きますが、歌意が分かりやすい歌ばかりだと思います^-^)


*さらにおまけというか蛇足*
(以下、延々と自歌自解を書きます面白くなくてごめんなさい。えっ今までも別に面白くなかっt)
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今回の私の歌について。(お前より俺のが巧いと殴られて席を奪われた特攻機)

これは第二次世界大戦の史実ではなく、完全に「友」イメージからの創作なんですが、自分がなまじ戦史マニアなために、「当時の状況としてこんなシチュエーションありえないから、読者も創作として読んでくれるだろう」と思い込んでいました。
でも実際はそんなことはなく、史実と判断がつきかねた方が多かったと思われます。そうなると個人の思想信条とも関わってくるわけで、あるいは親や祖父母が特攻に関わってた方もおられたかもしれないわけで、そうした方々の心に負担を与えてしまったことをお詫び申し上げます。
「特攻機」みたいな一言でインパクトを与える語が好きで、ついついそういうものを使いがちで、これからも多分使ってしまうと思いますが、今回のことをしっかり心に留めるようにしたいと思います。
(ここまで読んで下さっている心優しい皆様、この件については、たとえ賛成意見であれTL上で言及しないで頂けると幸いです)

もう一つ、この歌に頂いた評について。「気球」さんから「ゲームセンターでの小競り合いですよね?」という趣旨の解釈を頂きまして、正直その意図は全くなくてびっくりしたんですが、でもすばらしい解釈だと思いました。
ゲームセンターのゲームの勝者という、社会的にはまったく無価値な称号を得るために、殴り合いまでするバカな男の子たち。でもその、一般に理解されない価値観を共有できるやつらこそ、本当の友だち。…そうか、そういう「友」か…。気球さん、すばらしい解釈でした!ありがとうございます!(≧∀≦)