初回無料(by 価格未定さん)

◇2014.5.25◇

【 価格未定処女短歌集「初回無料」より5首!】
外角の高めに甘く飛んできた君に手を出すしかない打席
(「君と長電話した後」より)
四年半ふたをしてきた炊飯器開ける覚悟で電話をかけた
(「二十五の夜」より)
ブラジャーが黄土色でもいいじゃない君こそ僕の運命の人
(「スピッツ短歌」より)
焼き、ペース、注文、しゃべり、飲みっぷり、気配り全てチェックしてます
(「女の子はサメを飼っている」より)
ロックってなによロックはロックだろこんな会話ももう六年目
(「自動みそ汁調理マシーン」より)

「人妻『価格未定』の処女短歌集、『初回無料』500円!」
…というカオスなキャッチフレーズでおなじみの、価格未定さんの第一歌集「初回無料」。
いかにもこの方らしく、タイトルからしてもうどっからツッコんだらいいのか。とりあえず、「処女作」という言葉を聞くたびにつねづね感じていたモニョッとした気持ちを正面から斬ったところに拍手です。
ちなみに内容はけっしてエロ歌集ではなく本気の歌集ですが、でもエロくないかというとそうでもなく、本気なんだけど脱力系で、熱血だけど哀愁で、えっとなんというかモニョッと (※めっちゃおもろい歌集です)

外角の高めに甘く飛んできた君に手を出すしかない打席

例えが秀逸な歌。その球ボールかもしれんで(^^; でも「手を出すしかない」…後がないんですね。
今までどストライクをさんざん見送ってきて焦ってるところに、この打てと言わんばかりの球。いやもう罠でも何でも打っちゃえ!ピッチャーという名の神様の含み笑いが見えても打っちゃえ!見苦しいほどに体勢崩して食らいついちゃえ!打球がギリギリでもファウルポールに当たってもホームランはホームランや!!
(何か途中から身につまされてきたらしい湯呑さん)

四年半ふたをしてきた炊飯器開ける覚悟で電話をかけた

一番好きな歌(^-^)
この歌も例えがすばらしいですね。四年半。もう何かの生命体になってそう。ピッコロ大魔王とか。それでも開けるんだから相当な覚悟です。元気玉用に元気を分けてあげたい健気さ。
ところでこの歌、読んだ人の99%が「炊飯器には炊いたご飯(だったもの)が入っている」と考えると思うけど、実際はどこにもそうは書いてないんですね。むろんそう読まなければ面白くもなんともない(^^;から、みんなそう読むだろうけど、「空かもしれないじゃないか」という1%の国語原理主義者(?)と、河原で殴り合った上で友だちになりたい気がちょっとした。変なこと書いてすいません。この歌自体は書いている通り、超好きな歌であり秀歌だと思います。

ブラジャーが黄土色でもいいじゃない君こそ僕の運命の人

いいじゃない(≧∀≦)  ※すいません超反省してます
この歌はスピッツ(犬じゃなくバンドね)の大ファンである価格未定さんが、スピッツ愛のあまりにその曲名を折り込んだ短歌を作りまくった「スピッツ短歌」のコーナーから。この歌は「運命の人」です。しかし「ロビンソン」しか知らない湯呑さんはスピッツ要素を華麗に全面無視して書きます。価格未定さん今度会ったら小一時間土下座させてください。
男性視点で詠まれた歌ですが、「黄土色」の色気もクソもない感じがいいですね。なんでこの流れで「運命の人」という結論になるのか。もう「君」だったらドドメ色でも何でもええんちゃうんか。論理の破綻から、逆にミもフタもない惚れ込みようが伝わってきて素敵です。

ところで以前、「ふたまわり」の小川千世さんの歌の時にも書いたのですが、この歌もまた、「女性が作る男性視点歌」の典型例であるように思えます。 むろんそれが悪いというのではなく、それだからイイ。女性(つまり実際の自分)を若干卑下した内容にすることによって、包容力のある男性像をうまく描けていると思います。実際の男性歌人にはできない、したらブーイングなやり方。
歌会なんかだと、こういう歌は作者の性別がたちどころに特定されそうです。私(湯呑)が女性視点の歌を作ってもあっさりバレることはよくあります。きっと互いにどこか化けそこなっている部分があるのでしょう。おもしろいなあ。

焼き、ペース、注文、しゃべり、飲みっぷり、気配り全てチェックしてます

女の人ってそうなんや… ((((;゚Д゚)))) いやでも、男でも、意識的でなくてもやっぱり心のどこかでチェックしてますよね。お互い様です。
この歌は顔の造作とかオシャレさとかそういうんじゃなく、人間的魅力に注目しているのが救いですね。いやボク人間的魅力もないけどさ、そういうのって評価基準が一定じゃないから、たとえばしゃべり下手がプラスに作用することだってあるからさ、あるよね、あるって言ってよ #しらんがな
この歌は連作「女の子はサメを飼っている」の中の一首で、同連作にはこうした女性のしたたかさを描いた歌が多数収められています。でも、したたかなんだけど、どこか懸命さがあって、ああそっちも必死なんだな、とちょっとホッとします。サメっていうのが象徴的でいいですね(^-^)

ロックってなによロックはロックだろこんな会話ももう六年目

この二人の「割れ鍋に綴じ蓋」感がいいですね。下積み長そうな感じも。
「精神論ぶってないで売れてみなさいよ!」なんて口では言いながら、実は誰よりも彼の不器用なロック魂のファンである彼女。この彼女には、「ロックとは、リズムアンドブルースやカントリーミュージックから強い影響を受けた1940年代の…」とか語りだす奴じゃ絶対にダメだし、「い、岩?」とか1mmも面白くないボケをかます湯呑さんでもダメ。ほらやっぱそういうのって評価基準が一定じゃないから #しつこい
情景がたちどころに浮かんでくるのがいいですね。ボロいアパートでギター抱えてる、ビンボーだけどあったかい光景がありありと。シーンの切り取り方がうまい一首だと思います。

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以上、「初回無料」より、価格未定さんの作風というか芸風が光る五首をお届けしました!昨年末から未来短歌会の笹公人欄に所属された価格未定さん、その選択に超納得(^^; 今でもこのトバしっぷりなのに、さらに短歌念力を磨かれたらどうなるか。放送できるのか。ドキドキです。
ちなみに価格未定さん、今は早くも新作「高橋とエロ本」を精力的に売り出し中。こちらはまだ湯呑も読んでませんが、タイトルのアレっぷりから健在というか顕在な感じですので間違いないかと思います!何がよ。