ふたまわり / 花とチュロス

◇2014.5.11◇

【「ふたまわり / 花とチュロス」より6首!】
何もかも他人のぼくらを毎朝同時に運ぶE231
(さとうすずすえ/「ユレル」)
鼻筋が通った好きな横顔はわたしじゃない人を見てる顔
(なるなる/「トライアングル」)
物語のようにうまくいかないが電話を手に取る日曜の朝
(田邊葉月/「日曜の朝のための物語」)
どうやって褒めたらいいかわからずにあなたの鼻緒ばかりみている
(ろくもじ/「続きを待って」)
僕たちはきっと幸運同じ日に違う夕日を交換できる
(赤井悠利/「空を見つめる」)
気がつけば熊の食器も増えていてロングヘアをくしゃくしゃにする
(小川千世/「ふたりぐらし」)

どうも。若い女性歌人ばかり取り上げていると絶賛非難ゴーゴーの湯呑です。そんなんちゃうわー!ということで今回は全員20代の女子短歌グループ「花とチュロス」を取り上げます。えっと石だけは投げないでください。

「ふたまわり / 花とチュロス」は「花とチュロス」の同人誌第1号です。
2013年11月に東京であった第17回文学フリマでお目見えし、その後12月の大阪の「短歌な大忘年会」でも販売されました。「ふたまわり」が書名で「花とチュロス」がグループ名です。「secret base / ZONE」みたいな感じです。湯呑さんのJ-POP知識は10年以上前に止まっています。
「ふたまわり」の由来は彼女ら6人全員が昨年当時24歳で干支ふたまわりだったから。また「花とチュロス」は「と」以外はメンバーの名前(姓名の名)の頭文字のアナグラムだそうです。シャ乱Qみたいな。もういいよ。

掲載歌は比較的ひねりのない、分かりやすい歌が多いですが、それは彼女らが若いからとかではなく、リーグ戦形式(?)で総当たり相聞をするという難易度の高いことをやっているからです。相聞すなわち恋歌の送り合いですから、一方は男性になりきるわけでなお難しい。 でもそれが結果的に、素直で読みやすい、短歌にちょっと興味をもった若い世代が読むのにぴったりの歌集に仕上がったのではないかと思います。
勝手ながら、以下のご紹介歌はストーリーになるように掲載順を変えさせて頂きました。実際の個々の相聞の中で読むと、また違う雰囲気が味わえます。

何もかも他人のぼくらを毎朝同時に運ぶE231 (さとうすずすえ)

片思いの歌ですね。E231は通勤電車の車両番号。毎朝見かける彼は、まだ私の存在すら知らないかもしれないまったくの他人。この時点では実際的な物語はなんにも始まっていないわけですが、二人が乗っている列車に名前をつけることで、勝手に運命共同体にしちゃっている。
E231の無機質というかムリヤリ感が、かえっていじらしい。主体が実は鉄子さんだという可能性は排除しましょう。(そんなん誰も考えてないよ)

鼻筋が通った好きな横顔はわたしじゃない人を見てる顔 (なるなる)

ある種の現実を突きつける、悲しい発見の歌。
横顔好きの女性は、つまり報われない恋をしているということなのですね。さらに考えれば、男女は両想いになったとたんに、相手の一番好きだったところが見えなくなってしまうということが往々にしてあるんですね。色々考えさせられる歌でした。
まあしかし、おつきあいするとまた別の所が輝いてくることもあると思うし、人生結果オーライだと思います。などと湯呑容疑者は歌評とは完全に関係ないことを熱弁しておr

物語のようにうまくいかないが電話を手に取る日曜の朝 (田邊葉月)

好きな人に初めて電話を掛けるシーン。ドラマなんかだと実に気軽に電話を掛けて一切噛むこともなくすらすらと相手を誘うわけですが、現実は、掛ける前のシミュレーションに10倍ぐらいの時間を費やしたあげくに本番は噛み噛みでめっちゃつっけんどんで相手が何か言おうとしてるのにあせってブチ切ってしまって底なしの自己嫌悪に沈んでいくことになりがちです。※描写が妙に具体的なのは気にすんな。
でもそんな現実を踏まえてなお、電話をする。決意みなぎる感じがいいですね。「日曜の朝」に明るい前途が予感されます。あと「受話器を手にする」とかじゃないのが平成世代だなぁとかまた関係ないことを供述しておr

どうやって褒めたらいいかわからずにあなたの鼻緒ばかりみている (ろくもじ)

これは男性視点で詠まれた歌です。初めての浴衣デートの場面ですね。
主体の彼はめちゃくちゃうれしいし彼女の浴衣姿は最高にかわいいんだけど、何をどう褒めていいのか分からない。もうはらたいらさんに全部みたいな気持ちなんだけど、そんなこと言ってスベったら目も当てられない。だからついうつむいて赤い鼻緒ばっかり見ちゃう。
まだ若くて恋愛経験のない二人のぎこちない感じを見事に描いた秀歌だと思います。多分はらたいらさんって分からないと思いますごめんなさい。

僕たちはきっと幸運同じ日に違う夕日を交換できる (赤井悠利)

遠距離恋愛の歌ですね。一読してちょっと意味を考えて、分かった時にじわりと広がる余韻。巧いなあ。
メールで交換しあうそれぞれの夕日。遠距離だから本当は色々つらいはずなのにそれを一切言わずに、言い聞かせるような「きっと幸運」。健気な感じが胸を打ちます。うまくいくよあんたら。(誰やねん)

気がつけば熊の食器も増えていてロングヘアをくしゃくしゃにする (小川千世)

これも男性視点で詠まれた歌。ついに一緒に暮らし始めた二人。同棲か新婚か分かりませんが、とにかく幸せそうな感じが伝わってきます。
「熊の食器」は彼女の趣味で、そんなカワイイ系が徐々に浸透してきた新居に苦笑いしながらも、彼女が自分に変に遠慮せずにきちんと自己主張していることをうれしく思う彼。 肩ひじ張らずに適度に自分をさらけ出しあって、この関係を末永く続けていこうとしている二人を描いた、心あたたまる一首です。
(ただこれがもし本当に男性が詠んだ歌だったらちょっとナルシストすぎて引く^^; 女性が描く男性像だからいいんだなぁ…。その点で興味深い歌です)

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「花とチュロス」の活動としては他に、2014年3月にPDFミニ歌集が期間限定で出されています(残念ながら今はもうダウンロードできません…)。そして2014年秋の文学フリマでは、冊子第2弾が出るとのこと!こうご期待!
短歌で様々な世代が集まるのも面白いですが、こうして同世代でワイワイやるのも楽しいでしょうね。十二周年記念特別号「さんまわり」が出るまで、末永く続きますように。その頃にはよんまわりの湯呑さんより。