Pick Up!(投稿歌集等で見つけた一般の方の秀歌集)

ありがとうではあまりにも足りなくて 珊瑚になって産卵したい
(宮田ふゆ子/笹公人編著「笹公人の念力短歌トレーニング」より)

最上級のありがとうを伝えるのに、ふさわしい一首と思います。
それにしてもよくそれとこれとを結びつけたなぁ…その発想に脱帽です。

同じ事を二回言うかもしれませんどうぞよろしくお願いします
ひと目惚れ以外したことありませんどうぞよろしくお願いします
(中川愛/枡野浩一編「どうぞよろしくお願いします」より)

枡野浩一さんが企画・編集された投稿歌集「どうぞよろしくお願いします」は、あらかじめ決まった下の句(七七)に投稿者が様々な上の句(五七五)をつける、「付け句」という遊び企画から生まれた本です。
ご覧の通り、この本における歌の付け句は「どうぞよろしくお願いします」。本に収められた歌はすべて、下の句が「どうぞよろしくお願いします」になっていて、様々な上の句が、投稿者の腕の見せどころになっています。
面白い歌が山盛りの本でしたが、とりわけこの中川愛さんの二首がほのぼのしてて好きです。
「こちらこそよろしくお願いします」って言いたくなっちゃう。って何をだ。

銀河まで宅配便が行けばいいお前の好きな柿が熟れたよ
(米津説男/第五回「あなたを想う恋のうた」秀作)

大昔(たぶん7年ぐらい前)に新聞で読んで以来、ずっとおぼえていた歌。亡くなった妻(あるいは夭折した子ども?)を想う、切ない挽歌です。
作者名をおぼえていなかったのですが、ネットで検索した結果、この米津説男さん(俳人さんのようです)の作品と思われます。その後「警察署長」(たかもちげん・やぶうちゆうき)という漫画と、漫画原作のTVドラマでも使われ、有名になったようです。(詳しい経緯は分かりません…もし違っていたら教えて下さい!)
年老いてからも、こんなきれいな歌が詠めるといいなあ…としみじみ思います。

心知らぬ人は何とも言はば言へ 身をも惜しまじ名をも惜しまじ
(明智光秀の辞世の歌)

突然400年以上前の人の歌をひっぱり出してきてすいません。あるあるのうた史上最古ですね。
でも、昔の人の歌でありながら、武士らしく(?)意味は明快で、何の飾りもない魂の叫びって感じが好きです。
これは明智光秀が「本能寺の変」で主君信長を討った後、秀吉との戦いに敗れて敗走、残党狩りに見つかって殺される時に詠んだ歌とされています。
一般に、裏切者として嫌われているこの方ですが、どうもこの歌を読む限りでは、個人的な遺恨とか、天下を取りたいとかの欲得じゃなく、何かもっと別の命を懸けるべき理由があったんじゃないかな…と思ってしまいます。
ここは歴史サイトではないので、彼の真意や「本能寺の変」の是非を問うものではないのですが、「心から叫んだ歌は、技巧や才能を超える力を持つことがある」と思った一例として挙げさせて頂きました。
なお、この歌は「黎明に叛くもの」(宇月原晴明)という小説で知りました。オススメの伝奇小説です。

ちょっとまてそのタイミングじゃないでしょう八宝菜のうずらのたまご
(チヲ/穂村弘「短歌ください」より)

わかるわかる!こういうどーでもいいことにも、なぜか人それぞれの食べる順序があったりしますよね。
短歌のいいところは、このように「こういうのあるよね?」というのを歌にして発信できることだと思います。
突然何の脈絡もなく「うずらたまごのタイミングってあるよね!」とか言ったら「あの人ついに壊れちゃったのかな…」と陰でヒソヒソされることになっちゃいますが、「こういう短歌作ったんだけど意味分かる?」と言えば、たとえ理解してもらえなくても自分を守れますよね(^^;
特にこのサイトは「あるある」という共感を目指して発足したわけで、その理念はどこのお空にとんでっちゃったのか?な歌も時々ありますが、あまり理念にとらわれ過ぎず、でも忘れず、掲載歌のようなあるある感を目指して、色々まわり道もしながら進んでいこうと思います。

「幸せな時間」はとてもせっかちでお茶も飲まずにお帰りになる
(木下務/第12回大伴家持大賞佳作より)

ほんとにねえ。しかも、いつもいなくなってから気づくんだよね。また忘れた頃に来て下さいね。

鳥取市・日本海新聞社などが主催する「大伴家持大賞」の過去入賞作は、グッとくるものが多くて好きです。
ちなみに昨年の第18回お題「雲」に応募して、かすりもしなかったのは内緒です。ないしょにしてね。

ありったけのザラメを入れて回すからないしょにしてね雲製造機

元気だよ君はおっちょこちょいだから雲の上からのぞかないでね  (西村湯呑)

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