天野慶(あまの けい)さんの短歌

日溜まりに置けばたちまち音立てて花咲くような手紙がほしい
(天野慶/「短歌のキブン」より)

天野慶さんの短歌は、絵本から抜け出してきたようなメルヘンチックな感じが素晴らしく、 私の頭の中では永田萌さん(絵本画家)の爽やかな色彩の絵で再現されます。「手紙がほしい」と 言いながら、この歌そのものが花咲く手紙のような、やさしい気持ちにさせてくれる歌です。

夏草のなか透けて見た笑顔ならあげられるものすべてをあげる
(天野慶/天野慶・天道なお・脇川飛鳥「テノヒラタンカ」より)

2012年8月31日、「あるあるのうた」の記念すべき第1回目に使わせて頂いた大好きな短歌。
これを詠んだ当時の天野さんの年齢からして、夏草の向こうで笑っているのは「恋人」だと思うのですが、母親が幼子を見て詠んだようにも思える歌です。 いずれにしても、何気ない瞬間に誰かをかけがえなく愛しく思うことがある、ということを表現した素敵な歌だと思います。

通過した駅のホームにあのひとを見たような気がしたままにした
(天野慶/天野慶・天道なお・脇川飛鳥「テノヒラタンカ」)

さみしいけど明るい、前向きな気持ちになれる一首。
まぼろしかもしれないけど、これで明日もがんばれるから、あのひとだったことにしておこう。
そんなヒロイン(天野さん?)が、なんとも健気です。
ちなみにこの歌、3人の女性歌人による歌集「テノヒラタンカ」の中で、作者が特定できず モンモンとしていたのですが、敬愛する天野慶さんご本人から、メールで「私です」という丁寧なお返事とサイト励ましの言葉を頂き、 これで200年ぐらいがんばれる気がしている西村です。

約束は破っていいよ指切りがただしたかっただけなんだから
(天野慶/「短歌のキブン」より)

うおぉぉぉ慶ちゃんかわいそう!慶ちゃんにこんなこと言わせた奴出てこい!!ぶんなぐってやる!!!
…と勝手に熱血サポーターしてしまう歌。天野さんすいませんごめんなさい。
別れの場面における女性の優しさに、胸を打たれる一首です。きっとこのあと一人でさめざめ泣くのでしょう。
この歌がずっと印象に残っていて、題詠blog2012のお題「力」で、こんな歌を作りました。

法的な効力なんてないけれど命をかけて守る指切り  (西村湯呑)

ポジティブにしたために天野さんの歌よりずーっとインパクトは薄いですが、自分では気に入っています。
天野さんありがとうございます!

ほしいのは勇気たとえば金色のおりがみ折ってしまえる勇気
(天野慶/天野慶・天道なお・脇川飛鳥「テノヒラタンカ」より)

うーんわかる。子どもの頃、折り紙の袋の中の金色と銀色って、なんかプレミア感があって最後まで残してました。共有のものならなおさら、自分ごときが折っちゃいけないと思って残してたなぁ。
でも、今や講演もバリバリこなされる天野慶さんも、かつては同じ思いをしていたことがあったんだ、と思うと、なんだかほっとします。
世の中にはいきなり金から折り出す豪傑(?)もいるかもしれませんが、大多数は、「折れない人」であったのが勇気をふりしぼって「折れる人」になるわけで、そのプロセスを経た人にも、まだこれからの人にも、共感と力を与えてくれる素敵な歌だと思います。

つぎのひと>