短歌、BLOGを走る。2012

◇2013.06.15◇

【「短歌、BLOGを走る。2012」より10首選!(前半)】
眠らずに隣にいない人のこと考えるとき闇はやさしい
(やや/お題「隣」)
日が射せばもうそれだけで春ですね因果っていう言葉、好きです
(中村成志/お題「果」)
野良猫の子猫の爪のどうせなら逆賊と成り果ててしまえよ
(み/お題「逆」)
渋柿の渋が抜けゆく不思議さと思えるほどの心変わりだ
(紗都子/お題「渋」)
何億の食物連鎖の頂点に速水もこみち握る包丁
(天鈿女聖/お題「鎖」)

みんな大好き「題詠blog」。10ヵ月の期間内に、100個のお題を1つずつ詠み込んだ100首を投稿していく別名「題詠マラソン」は、毎年300人前後が参加するWeb短歌界屈指の人気イベントです。
その題詠blogが昨年10周年を迎えたことを記念し、イベント参加者による合同歌集「短歌、BLOGを走る。2012」が出版されました。恥ずかしながら、わたくし湯呑の歌も載せて頂いてます。

この本は、希望者が費用を出し合って出版社に出版してもらうかたちの、共同出資の自費出版です。題詠blog2012完走者という条件はありますが、完走者であり所定の費用を払った人なら誰でも、題詠blog投稿歌から自分の好きな歌10〜12首を載せてもらえます。

あ!今あなた「自費出版か…」って顔したでしょ!でしょでしょ! …いや、その気持ちは分かります。
でもでも、参加者みんな、渾身の10/100首を出してくるんですよ。これはすごいことですよ。じっさい某N村氏を除いてみんなすごかった。今回、10首だけ紹介だけど、倍じゃきかない数の良い歌てんこ盛りでした。
某Y呑氏はネタっぽい歌ばっかり出したら真面目な歌に両脇を挟まれて浮きまくるという羞恥プレイで泣きそうになってる(自業自得)のだけど、それでも黒歴史として封印せずに、この本を全力で宣伝します!

…ハイ、というわけでいつもながらの長い前フリを経て、ピックアップ歌の感想です。

眠らずに隣にいない人のこと考えるとき闇はやさしい (ややさん)

「闇」が「やさしい」という意外な視点。でも、全体を通してすごく共感できる。
布団に入っても眠れない夜は、暗闇の羊水に包まれているような気分になりますよね。
(なんとなく「やや」さんのお名前からの連想かも…)

日が射せばもうそれだけで春ですね因果っていう言葉、好きです (中村成志さん)

春ですね!!(夏です)
因果っていう言葉をまさかのポジティブにもってきて、なお大納得させてくれた中村成志さん、好きです。(えっ)
ひとつ前のややさんの歌もそうですが、通常その言葉が持つイメージを覆す歌にシビレます。
不良がこっそり捨て猫にミルクやってるみたいな。ちがうか。(次の歌に続く)

野良猫の子猫の爪のどうせなら逆賊と成り果ててしまえよ (み さん)

そ、そんなつぶらな瞳でオレを見るなよ!ニイニイかわいい声で鳴くなよ!
野良だろ!その爪研いで、Sザエさんと互角に戦って胸に七つの傷を残すぐらいの武勇伝つくれよ!
う、うちじゃ飼えないんだよ!ばか!ばか!(泣きながら駆け去っていく不良くん)

渋柿の渋が抜けゆく不思議さと思えるほどの心変わりだ (紗都子さん)

これは私の中で二つ解釈がありまして。
一つは「あいつのこと嫌いだったけど、最近気になる。私どうしたんだろ」※MajiでKoiする5秒前です。
もう一つは「ひねくれ者のあの人が、最近急に優しい。どうしたんだろ」※MajiでKitokuの5秒前です。
いずれにしても「悪感情が時間とともに消えていき、甘く優しい心持ちになる」ことの表現が素敵でした!

何億の食物連鎖の頂点に速水もこみち握る包丁 (天鈿女聖さん)

もこみちwww (*´艸`)
題詠blog名物、うずめさんのネタ短歌。同じネタの道に生きる者として、うずめさんの歌はただ面白いだけでなく、対象のイメージのとらえ方が絶妙なので嫉妬しまくりです。もこみちもイケメンな上に料理ができて嫉妬です。 ちなみにこの記事書くためにググったら「『もこみち』という名前は本名である」というこの世で3298番目ぐらいにどうでもいい知識が得られたので皆様にも広めます。

残り5首はまた次回!次回もあんな人やこーんな人が!(←そればっかし)

◇2013.06.18◇

【「短歌、BLOGを走る。2012」より10首選!(後半)】
熱帯は遠いでしょうか 純愛をしておりますが行けるでしょうか
(たえなかすず/お題「帯」)
いつの日かあんたらと巡りあえるなら大西洋に沈む大陸で
(Jingo/お題「西洋」)
手の甲に忘れないようマジックで六時起床と書いて就寝
(珠弾/お題「甲」)
靴紐を締めるあなたの奥底に雪なんか降るな。降るな、絶対。
(柳めぐみ/お題「締」)
童話なら三人姉妹の末っ子はいちばん賢く素直だけれど
(五十嵐きよみ/お題「童」)

短歌、BLOGを走る。2012」 後半もすごいぞー!(←もっとなんか言い方ないんか…)

熱帯は遠いでしょうか 純愛をしておりますが行けるでしょうか (たえなかすずさん)

「熱帯」は出すとこ出してたわわになった(古っ)恋の楽園な感じで、手をつなぐこともできない純愛な二人には遠い遠い世界。「行けるでしょうか」なんて丁寧に聞いているところがもうドン底な感じですが、なんかめっちゃ応援したい二人でもあります。

いつの日かあんたらと巡りあえるなら大西洋に沈む大陸で (Jingoさん)

「あんたら」が私の中で圧勝した歌。「あんたら」いいよ「あんたら」。
後半の何だか壮大で、ともすればぼやけてしまいそうな世界が、「あんたら」のマッチョでちょっと野卑な感じによってリアルさを帯び、しっかり色がついた気がします。そうは思わんかあんたら。

手の甲に忘れないようマジックで六時起床と書いて就寝 (珠弾さん)

この歌は題詠blog2012で、フユさんの「喪」の歌と並んでベストオブ吹いた賞でした。
こういうの好きやわー。もう嫉妬が湧いて湧いて源泉かけ流しやわー。

靴紐を締めるあなたの奥底に雪なんか降るな。降るな、絶対。 (柳めぐみさん)

題詠blog2012に参加していた当時から気になっていた柳めぐみさん。愛しさや悲しみの表現が、すごく上手い方だと思います。この歌もそうだし、「短歌、BLOGを走る。2012」には載ってないけど、お題「拭」の:

食卓のあなたの席を拭きながら泣かなくなった自分に気づく (柳めぐみ)

…にはかなりくわーってなりました。くわーって何だって聞かないでね。
そしてこの柳めぐみさん、先日6/6の「うたつかい」4月号紹介記事で歌を紹介させて頂いた「柳原恵津子」さんと同一人物であることに今頃気づきました。またすごい人見つけたって思ってたのに。くわー。

(…あ、さっきから掲載歌の解説ぜんぜんしてない。この歌は、出征する夫を見送る妻のような…絶対違うけど…静かで強い強い愛情が伝わってくる、大好きな歌です)

童話なら三人姉妹の末っ子はいちばん賢く素直だけれど (五十嵐きよみさん)

五十嵐きよみさんが三人姉妹の末っ子かどうかは知りませんが、「〜だけれど」で終わることで、自分の劣等感とか、世間の期待に応えられないつらさとか、書かれていないのに実際に書かれているよりずっとヒシヒシ伝わってくるところがすごいと思いました。こういうのって人がやってると簡単そうに思うけど、自分じゃ200年たっても思いつかないんですよね。
「童話」っていうのも、容赦ない現実との対比がよりくっきりするうまい工夫だと思います。長男かつ末っ子という、どないせえっちゅうねんポジションにいる私には響く歌でした(^^;


最後の五十嵐きよみさんは、「題詠blog」の11年にわたる主宰者であり、この「短歌、BLOGを走る。2012」も発起人として、資金集めから詠草取りまとめ、発送に至るまで一手に引き受けてこなされたすごい方です。
いつも思うのですが、私のような駆け出し歌人に、このように歌を発表できる場を提供して下さる方々には、本当に感謝してやみません。五十嵐さんの題詠blogを通じて、何百人という方が短歌同好の輪を広げたことを思うと、その偉業に気が遠くなります。私も題詠blogに参加したことで、鈴木麦太朗さんをはじめとする素敵な方々と出会うことができました。
出す歌もネタなら評までネタに走ってるヤツがいうのもなんですが、このように不断の努力で短歌インフラを支え続けている方々への感謝を忘れず、少しでもその恩に報いられるよう、これからも常にその時その時の自己ベストをぶつけて、場全体を盛り上げていきたいと思います。(またハードルを大気圏外まで上げちまった…)