2014年6月の過去ログ

◇2014.6.1◇

【今井心 歌集「Inside」より三首!】
ああ全て進化の途中の生き物と説明文を窓に貼ろうよ
札幌に住むことになる うん 僕もおもしろい人になりたかったけど
街に雪よく似た背中目で追って今は今は今永遠に去る
【今井心 句集「Outside」より三句!】
温室の蓮開ききり無音かな
I'm feeling lucky 春の雨円し
風船の重りとしての身体かな

まだ二十代前半の若さで短歌と俳句の両方をこなし、その両方で実績を出しているすばらしい才能の持ち主、今井心(いまいしん)さん。(短歌では中城ふみ子賞次席、短歌研究新人賞候補作、俳句では鬼貫青春俳句大賞受賞。他にもあったらごめんなさい)
短歌と俳句って私(湯呑)の中では全くの別物なんですが、時々こういうノーボーダーみたいな人がいるからぶったまげます。そして両方やる人でも、たいていはどちらかに重きをおいているのに、今井さんは特にどちらかを主とせず均等に打ち込んでいるから、さらにすごい。おそらく、その場その場でよりふさわしい表現方法を使い分けているのでしょう。このテーマには振り子打法、このテーマには無回転シュートみたいな。(毎度下手な例えですいませんm(_ _)m)
そんな今井心さんのすごさが詰まった対の作品集、歌集「Inside」・句集「Outside」、二冊続けてお送りします!

ああ全て進化の途中の生き物と説明文を窓に貼ろうよ

このうた超すき(;o;)
人間を水族館の生き物に見立てて、外から見ている誰かに対して「まだ途中なの、未熟で、馬鹿で、野蛮で、ごめんね」みたいな感じ。
壮大なスケールでありながら、冒頭の「ああ」によって一個人の祈りであることが強く印象づけられ、まだまだだけど、いつかきっと完成するよ、という小さな小さな自負がとても美しく思えます。

札幌に住むことになる うん 僕もおもしろい人になりたかったけど

おもろいやんけ(;o;)
こういう電話の会話風の歌というのは時々見られますが、なんでしょうこの後半の予想もしなかった展開。どんなシチュエーションやこれ。
でもそれでいて、「札幌」の寒々しさが「おもしろい人」になれなかった人の流刑地のように感じられて、しっくりはまります。って今井さんはじめ全北海道の皆様ごめんなさいm(_ _)m
しかしこのおもしろさで札幌だったら、私なんかシベリアやで。いま南極ってツッコんだ奴ちょっとこい。

街に雪よく似た背中目で追って今は今は今永遠に去る

「今は今は今」のリフレインがグサグサ刺さるわー(;o;)
ちゃんと解釈できてるか自信がないのですが、「よく似た背中」は、本当は「よく似た」じゃなくて実際に別れた恋人本人で、でもあえて確認せず別人と思い込もうとしている…と読みました。
「今は、今は、」私もしあわせになったよ。そのことをあなたに伝えたいよ。でももう、できないよ。さようなら。永遠に、さようなら。 (´;д;`)ブワッ ←感情移入しまくりの湯呑さん
最後の「今」のバツッと切られた感じが泣けます。雪の降る情景も秀逸ですね。

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続いて句集「Outside」から俳句を三句。俳句は詳しくないのでおっかなびっくり書きますがいぢめないでください。じゃあ短歌は詳しいのかよっていうツッコミがもう雨あられ。ああ全て進化の途中の(ry

温室の蓮開ききり無音かな

何というかもう本当に無音。蓮が開いている最中だって実際は音なんかしなかっただろうけど、でもイメージとして、歯車がギリギリきしみ音をたてながらゆっくり開いていった感じがしました。中の人100人ぐらいがんばってそう。開ききったら、彼らはハイタッチしながら消えていき、そして訪れる完全な無音。
…蓮と言えば極楽のイメージですが、やるべきことをやり遂げた人たちの、穏やかな死後の世界のように思えました。死ぬほど読み過ぎですいません(・・;)

I'm feeling lucky 春の雨円し

「I'm feeling lucky」は「わたしツイてる!」といった意味で、またグーグルの一足飛び検索サービスの名称でもあります。「雨円し」は円という漢字から、雨粒ではなく、雨が水たまりなどの水面に落ちた波紋がまるいということですね。
具体的には分かりませんが、春の雨の中で何事かがあり、テストの答案にマルをたくさんつけられたような自己肯定感を味わったのでしょう。そしてそれはグーグル検索のように、次のステージにジャンプできるものであったのでしょう。(受験の合格…?)
春という季節の高揚をうまく表現した、秀句(っていうのかな?)だと思います。

風船の重りとしての身体かな

「風船」は魂の比喩でしょうか。なんかドキッとしますね。空に昇りたがる風船を縛りつけて、まだ行くな、まだやることがある、と地を這い続ける「重り」。時折、何かのはずみに風船のひもをパッとはなしてしまって、あわててジャンプして捕まえたりする。 でも、年を経るごとに(物理的な重さとは別に)身体は少しずつ軽くなっていって、いつか風船の浮力が勝って、ふわりと浮きあがる日が誰にも来る。
…と延々と物語を考えてしまう、深い一句でした。ところで風船って春の季語なんだそうです(ググった)。理由は風船が飛ぶのに春の空が一番映えるから、だとか。あんまり説得力のない理由に思えますが(^^; しかしこの歌に関していえば、季節が春であることに救いが感じられて、とてもいいなと思います。

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なお、「Inside」「Outside」ともに写真歌集(句集)になっていて、これらの写真も今井さんが撮っており、めちゃめちゃカッコイイです。(ってモノがないとこで書いてもわからんよねごめんなさい…)
今回の湯呑感想は全体的にやや「読み過ぎ」(語句から読み取れないストーリーを勝手に想像して解釈に加えること。基本的にNG行為><)でしたが、それは実はこれらの写真に影響された部分が大きいです(^^; でもそれだけ写真と歌/句がマッチしていて、完成度の高い作品集であったと思います。
天が三物かそれ以上を与えたマルチプレーヤー今井心さんの、今後の作品に超期待!!そして湯呑さんいっつも読み過ぎちゃうんかっていうツッコミには耳をふさいでアーアーアー!!

◇2014.6.10◇

【「水」がテーマの合同短歌集「みずつき3」より5首!】
「浮輪ってイイすごくイイ」漂流者たちは笑って手を振っている
(加子「女は海とか言うから俺は」より)
すぐにやむお天気雨だそのような気持ちではない気持ちとかじゃない
(工藤吉生「音だけになって雨は」より)
その明度、彩度もみんな好きだった未熟な夏のしたたる水の
(高松紗都子「さびしい腕」より)
小刻みに揺れる背中に手を伸ばす午前三時の雨におされて
(麦野結香「Fool in the Rain」より)
誰でもが水着になれる訳じゃない午前一時に酎ハイを買う
(綿菓子「コップ半分の水」より)

短歌クラスタきっての敏腕デザイナーこはぎさんがまたやってくださいました。
総勢84名参加、504首掲載の合同短歌集『みずつき3』。このボリューム、もはやミニうたつかいです。これがネットプリントないしWebダウンロードできるのだからもう近未来。湯呑おじいちゃんが番茶を麦茶に替えている間に、また世の中は進んだようです。
梅雨時に合わせて、「水」をテーマとした歌を集めた「みずつき3」、したたるような良い歌が揃っています。5首引かせて頂きました。

「浮輪ってイイすごくイイ」漂流者たちは笑って手を振っている (加子)

すごくイイ(≧∀≦)
…狂気な光景ではありますが、キラキラの白い歯を見せてサムズアップしているであろう漂流者たち(湯呑イメージではアゴの割れたアメリカ人のおっちゃんたち)が、どこかうらやましい気もするから不思議です。
シチュエーションのおかしさを狙った歌だと思いますが、でもそれだけでなく、全てを失った後の清々しさみたいなものが感じられて、なんだかほっこりした気分になれる歌です。

すぐにやむお天気雨だそのような気持ちではない気持ちとかじゃない (工藤吉生)

気持ちとかじゃない!!!(#゚Д゚)
  「何気なく言った言葉が思いがけず詩的で、ポエムじゃねえよ!!と否定している」というシチュエーションにとれる一方、「気持ちじゃなく確信だ、こんな逆境すぐに終わる!!!」という強い意志にもとれます。読む人によって取り方が変わりそうで面白いですね。湯呑さんはもちろん後者にスーパーひとし君。
(ところでお天気雨ってキツネの嫁入りのことなんですね。私は普通に雨天のことだと思ってて、なんでわざわざ「天気」をつけるんだろうと思ってました。ちなみに「天地無用」は「ザツに扱って可」だと信じ込んでいた黒歴史を持つ男です)

その明度、彩度もみんな好きだった未熟な夏のしたたる水の (高松紗都子)

えっと、この歌大好きだけどちゃんと解釈できてるか自信ない…(他の歌だってそうなんだけど)
この歌はたぶん、若者がその若い一時だけ持つ、無敵の強さみたいなものを表現していると思うのです。
どんなジャンルにおいても、若者が溢れる体力とまだスレてない伸びやかな感性で、いきなり神の領域のハイスコアをたたき出すことがありますよね。短歌始めた時が一番うまかったみたいなアレです。(ちょっと違う?)
そんな彼らは美しい。一瞬だから美しい。あとはもう年経るごとにスレてスレてすり切れて、その代わり技術的なものを積み重ねていって、別の美しさを会得していく(人もいる)のです。
「明度、彩度」は色を作り出す三属性のうち二つで、あと一つの「色相」があってはじめて色ができます。なので明度と彩度だけでは色にならないのですが、ここではあえてそう書くことで、まだ何の色もついていない、透明で美しい才能を表現したのだと思います。夏という、生命力がピークの季節、若者のしたたるような才能。瑞々しさにあふれた、とてもきれいな歌です。

小刻みに揺れる背中に手を伸ばす午前三時の雨におされて (麦野結香)

このどん底感がいいですね。(麦野さんごめんなさい…)
何かもうどうしようもない状況に追い込まれた男女。そして一方は泣いている。ダメ押しのように降ってくる深夜の雨。でもその雨によって、もうこれ以上悪くなりようがない、と開き直ることができた。なけなしの勇気を出して、相手の背中に手を伸ばす主体。そこに見えるかすかな希望。
最初、主体=男性、泣いているのは女性だと思いましたが、逆もまた切ないなーと思えてきました。うん女性主体の方がいいかも。
午前三時は夜の底の底の深夜、でも夜明けも近い時間。場面設定と心情描写が、うまくリンクしている歌だと思います。

誰でもが水着になれる訳じゃない午前一時に酎ハイを買う (綿菓子)

別に午前×時の歌が好きなわけではない(^^;
この歌は上句下句が一見バラバラで、なぜ水着から酎ハイ??となるのですが、一呼吸おいて、ああそういうことか、と腑に落ちる。その乖離ぐあいがとてもいいと思います。
主体は女性、場面は深夜のコンビニで、青年誌の表紙のプロポーション抜群の水着の女性を見ている。
「まー誰しもアンタみたいなボンキュッボンだったら人生苦労せんわなー。でもその体型維持すんの大変でしょ?深夜に飲み食いとか絶対ダメでしょ?私は酎ハイ飲むよ。あとラーメンも食べるよ。脳みそシビれるほどうまいよ。私は私の、アンタはアンタの人生を楽しもうね。私アンタのこと嫌いじゃないよ。そんじゃねー」
他人の外面的な幸福をねたむことなく、自分なりの幸せを見つけていく主体の姿にはものすごく共感します。あと勝手にラーメン追加してごめんなさい。

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なお冒頭にも書きましたが、84名504首ものボリュームをネットプリントで配信できるということ、そしてこはぎさんの丁寧なレクチャーにより、出力すれば誰でも簡単に中綴じ両面刷りの本格的な製本ができること、これらはかなり画期的なことだと思います。これはつまりちょっとした同人誌ぐらいのものも、技術さえあれば非常に低コストで気軽に全国配信できるということ。もしかしてこはぎさんは、後の短歌史を振り返った時にターニングポイントとなるすごいことを、先陣きってやってのけたのではないか…と思っています。
ネットプリント期間は終わりましたが、Web閲覧ページより「面付けデータ」をダウンロードして、家庭のプリンタで両面刷り(リンク先ページに説明あり)して、こはぎさん秘伝の中綴じ法(こちらも説明あり)で綴じれば、誰でもばっちり製本できちゃいます。さあ、あなたもダウンロードして歴史の目撃者になろう!!(大げさ?・・;)

◇2014.6.22◇

【「短杯2014」 テーマ「友」より10首!】
旧友と私を言い切ったあなたへP.S.いちごが実を付けました
(いけ)
1時間やったら次は岡くんちいって岡くんちの1時間
(山本まとも)
東京のことばで話すクボッチと食べるケーキは甘さひかえめ
(遊糸)
金沢の友から電話来る時にわたし必ず何か茹でてる
(工藤玲音)
交換の相手が居ない六月の教室 床へ降る玉子焼き
(チーム「ふえるわかめ(有)ネガティ部逝くとな」のチーム短歌)
長すぎるポテトみつけて永遠に笑えてしまうマクドナルドだ
(迂回)
擬態するだけが友ではないのだと古着を売った姉の手に風
(工藤瑞樹)
遊ばれてちいさく燃えるあしたからなくしてしまうおんな友だち
(いないずみ。)
絶交を出来る他人は在りもせずまだあたたかい教科書の灰
(中森つん)
海岸に砂漠に雨に駆けだしてお前は世界中が友だち
(牛隆佑)

連歌の花道」「月の歌会」「うたの日」など短歌イベントを次々繰り出し、ツイッター短歌クラスタや都都逸クラスタの間で絶大な支持を受けている凄腕プランナー「のの」さん。 そんなののさんが、この梅雨のジメジメを振り払うようなステキな企画をぶちかましてくれました。
チーム対抗短歌戦「短杯(タンカップ)2014」。4人以上のチームを組み、各メンバーの短歌の他に、チーム短歌も一首用意して戦う、かつてなかった短歌団体戦。短歌の共通テーマは「友」。(すばらしいセンスだ!)
メンバーを募集し、チーム名を決め、そしてチーム短歌を決める中で、否が応でも盛り上がっていく大会気分。わたくし湯呑も参加し、思いっきり楽しませて頂きました!!(≧∀≦)  →大会総合結果はこちら
そして優れた「友」の歌をたくさん収穫できました。以下、本戦で私が投票した短歌十首を紹介していきます。

旧友と私を言い切ったあなたへP.S.いちごが実を付けました (いけ)

一番好きな歌でした。あまりに好きすぎて「この短歌が切ない2014 (;o;)」というよく分からない評をつけて、ひいきの引き倒しにしてしまったかも(・・;)作者のいけさん、全力でごめんなさい。(あんまりにもまっすぐな強い悲しみが読めたので、解釈をつけるのが野暮な気がしたのです)
旧友、つまり今は友ではないと言い切られてしまった主体。「絶交」などより何倍もひどい、一方的で、罪悪感のカケラもない断絶。なのに主体はまだ「あなた」を思慕し、青いいちごの実に自分をなぞらえて、私もいつか熟するから、あなたと同じステージに立って、再び友だちになれるよう頑張るから、と届かない呼びかけを懸命に続けている。
いちごは未熟な自分の象徴であるとともに、そこに内包する赤い赤い純粋な思慕が感じられて、えっと、もう、なんていうか、この短歌が切ない2014 (;o;)

1時間やったら次は岡くんちいって岡くんちの1時間 (山本まとも)

ネタ部門(そんなん無いけど)ダントツ一等賞でした。
「友」のお題でまさかの「ファミコンは1日1時間」ネタ。31文字に笑いも郷愁も詰まっていてすばらしすぎます。さすがまともさん。
こういうなぞなぞみたいな歌を私は「アハ体験短歌」と呼んでいますが、「?→!」という、分かった時の快感がたまりませんよね。私も作ってみたいんですが、私が作ると謎が迷宮入りで終わることが多い…(>_<)
あとこの歌で地味に巧いのが「岡くん」という名前ですね。ありそうな二字姓で、でも特定の芸能人などを思わせない没個性。谷くんや原くんでは雑念が混ざる。こういう工夫が上位に入る人の技なんだなあ…(単にまともさんのリアル友人の名前だったらどうしよう)

東京のことばで話すクボッチと食べるケーキは甘さひかえめ (遊糸)

クボッチっていうあだ名が絶妙ですね(^-^)
ど田舎で一緒に遊び回ったスポーツ刈り少年が、いつの間にかアーバンな男になってしまって、土産にお上品なケーキなんか買ってきやがった。お前ばあちゃんのコテコテに甘いおはぎが好きやったんちゃうんか。お前なんか、お前なんかもうクボッチとちゃう!
(…というクボッチストーリーを評に延々と書いたのですが、他の評者さんを見るとクボッチ女性説が優勢で、そう言われるとそう見えてきてあああああああ)

金沢の友から電話来る時にわたし必ず何か茹でてる (工藤玲音)

工藤玲音さんのこの歌が、短杯2014の得票第1位に輝いた最優秀歌でした。
ありふれた友だちあるあるネタにポンと「金沢」という具体が入ることで、リアリティーというか物語性というか、ブワッと色彩がつく感じ。でも描かれる情景はけして派手でなく、ほのぼのと穏やかでやわらかくて、年齢性別越えて幅広い読者層にウケたのもうなずけます。
この歌もよく見るといろいろ工夫があって、「わたし」のひらがなとか、あと「茹でてる」が秀逸ですね。これが焼いたり炒めたりだと歌のやわらかさが台無し。「金沢」もちょうどいいやわらかさですね。「大阪」や「東京」だと趣旨変わりますね。そのへんに力量を感じます。って工藤玲音さんのリアル友人が金沢にいたら(ry

交換の相手が居ない六月の教室 床へ降る玉子焼き (ふえるわかめ(有)ネガティ部逝くとな)

一緒にお弁当を食べる友だちがいない歌ですね。…と私はすぐ分かったんですが、他の評では「交換?相手?」と、歌意を取りかねている方もわりとおられました。これはあれですか一種の踏み絵というやつですかうんぼく学生時代あんまし友だちいな(ry
…空想の友だちのお弁当箱に玉子焼きを差し出して、でももちろん実際はいないわけだから落ちていく玉子焼き。「降る」のスローモーション感が切なさ倍増ですね。六月の雨、さらには涙ともかかっているのでしょう。周りにはたくさん人がいるのに、いや、いるからこそ、孤独。もうなんだか手に取るように分かるんですけど何か?

長すぎるポテトみつけて永遠に笑えてしまうマクドナルドだ (迂回)

「友」という主題を最も的確に描いた作品だと思いました。こういうしょーもないことで爆笑しあえるのが友ですよね。(と、友のいない人が申しております)
「屁をひっておかしくもなし独り者」という有名な古川柳(作者不詳、江戸時代頃)がありますが、今回のポテトの歌はこれと同じ意味のことを逆の視点から言っていて、でもポテトの方がポジティブだし下ネタじゃないし、いっそこちらが後世に残ってほしいなあ、と思うぐらい良い歌でした(^-^)

擬態するだけが友ではないのだと古着を売った姉の手に風 (工藤瑞樹)

擬態とは、昆虫などが身を守るために木や石と同じ色になって風景に溶け込むこと。
仲間外れにならないように、みんなと同じ格好をして、同じテレビ番組を見て…誰にも経験があることですよね。特に女性はそういうの大人になってもある感じで、たいへんだなあと思ったりします。(男はわりと中二頃から徐々に独自の道を歩む気がする。歩み過ぎて病と呼ばれる奴もいる)
この「姉」はそんな保身のための見せかけの友情についに嫌気がさして、仲良しの象徴である服を売り払うことにしたのでしょう。代償はけして小さくないけど、でも、自分で決めたこと。本当に着たい服を着て、本当にやりたいことをやる。もしかしたらいつか、それを分かってくれる真の友が見つかるかもしれない。冷たくも爽やかな「風」が、心情を見事に表現して秀逸だと思います。

遊ばれてちいさく燃えるあしたからなくしてしまうおんな友だち (いないずみ。)

女友達の彼氏(夫?)を奪った略奪愛ですね。いや「遊ばれて」だから誘惑してきたのは彼氏の方か。いずれにせよ、友情が壊れることを覚悟しての一線越え。「おんな」のひらがながめっちゃ怖いよう(^^;
…描かれていることは社会通念上好ましいことではありませんが(もちろんフィクションだと思ってますよ)、私はこの歌に投票しました。個人的に、短歌の選歌というのは歌の主義主張ではなく、あくまで表現の巧拙のみを見るようにしたいと考えています(とはいえ、それとこれはなかなか分離できなかったりもするんですけどね…)。この歌は情念の強さが実にうまく表現されていると思いました。なんというかもう、ザ・いないずみ。って感じ!(作者発表前から確信していた^^;)

絶交を出来る他人は在りもせずまだあたたかい教科書の灰 (中森つん)

絶交だ!と叫ぶためにはまず友だちでなければならない、という論理に心を突かれました。これもまた、友だちのいない歌ですね…(ああ大好きさこういう歌)
「教科書の灰」、私は学校を卒業して、友だちのいなかった学生生活を悔やみながら教科書を燃やしているのだと思ったのですが、短杯後のご本人のコメントによるともっと壮絶なことらしい…(ToT)
ポジティブサイトの主としては、「まだあたたかい」に無理やりポジティブを見出したいところ。まだあたたかいんですよ!学生生活なんて居酒屋のつき出しですよ!(もはや歌評でもなんでもないソウルの叫び)

海岸に砂漠に雨に駆けだしてお前は世界中が友だち (牛隆佑)

ε=ε=ε=\(≧∀≦)/ ワァァァァァァァイ!!!
…みたいな。子どもか、あるいは犬とか。屈託がなくてめっちゃかわいらしい感じ。
「砂漠」が入ることでワールドワイドな雰囲気がうまく出されていますね。世界中どこへ行っても、好奇心があれば無敵。突き抜ける爽やかさがすばらしいです。
それにしてもこれがあの牛隆佑さんの歌だなんて…湯呑プロファイリングでは作者は30〜40代の女性でした。(絶対刑事になれないタイプの湯呑さん)

===
100名を超える参加者が集い、大成功に終わったネットイベント「短杯2014」。その大ヒットは主宰・ののさんの、優れた企画運営能力の賜物だと思います。誰でも参加しやすいようによく練られたルール設定、絶妙バランスの得点配分、そしてきめ細かい告知と迅速なFAQ対応、チームが組めないぼっち歌人へのフォロー(^^; …実にすばらしい運営ぶりでした。
そして最後に行われた閉会式の、この特設ページの凝りっぷりよ…(ToT)感涙!!
もうすっかりののさんファンになりました。最高のイベントを、本当にありがとうございました!これからも楽しみにしております!!(でもまずはごゆっくりお休みくださいm(_ _)m)

【おまけ:「チーム急須(信楽焼風)」の提出歌】
二十年経ってまる子が理解する亡き友蔵の心の俳句
(チーム短歌/作者:香村かな)
駄菓子屋でひく当たりくじ鐘の音が告げる僕らの夏のはじまり
(香村かな)
繰り返し不正はないと主張する渡辺麻友の勝利会見
(たた)
右側の頬だけあがる不器用な笑顔変わってなくてよかった
(なるなる)
「逃げようと思う」子を抱く友が泣く 切り取り線は目には見えない
(綿菓子)
お前より俺のが巧いと殴られて席を奪われた特攻機
(西村湯呑)

わたくし湯呑は上記のチームで参戦しました。私の、「友だち少ないんで雑用しますんで誰かチーム組んでください(;o;)」という、ミもフタもない呼びかけに応じてくださった4名の勇士に大感謝(;o;)
戦績は、特に香村かなさん作のチーム短歌が大ブレイクして、22チーム中7位という大健闘の結果を残すことができました。メンバーのソロ短歌も、他チームだったら投票していたであろう力作ばかり。すばらしいチームでした!ありがとうございました!!(身内褒めになるので解釈は省きますが、歌意が分かりやすい歌ばかりだと思います^-^)


*さらにおまけというか蛇足*
(以下、延々と自歌自解を書きます面白くなくてごめんなさい。えっ今までも別に面白くなかっt)
===
今回の私の歌について。(お前より俺のが巧いと殴られて席を奪われた特攻機)

これは第二次世界大戦の史実ではなく、完全に「友」イメージからの創作なんですが、自分がなまじ戦史マニアなために、「当時の状況としてこんなシチュエーションありえないから、読者も創作として読んでくれるだろう」と思い込んでいました。
でも実際はそんなことはなく、史実と判断がつきかねた方が多かったと思われます。そうなると個人の思想信条とも関わってくるわけで、あるいは親や祖父母が特攻に関わってた方もおられたかもしれないわけで、そうした方々の心に負担を与えてしまったことをお詫び申し上げます。
「特攻機」みたいな一言でインパクトを与える語が好きで、ついついそういうものを使いがちで、これからも多分使ってしまうと思いますが、今回のことをしっかり心に留めるようにしたいと思います。
(ここまで読んで下さっている心優しい皆様、この件については、たとえ賛成意見であれTL上で言及しないで頂けると幸いです)

もう一つ、この歌に頂いた評について。「気球」さんから「ゲームセンターでの小競り合いですよね?」という趣旨の解釈を頂きまして、正直その意図は全くなくてびっくりしたんですが、でもすばらしい解釈だと思いました。
ゲームセンターのゲームの勝者という、社会的にはまったく無価値な称号を得るために、殴り合いまでするバカな男の子たち。でもその、一般に理解されない価値観を共有できるやつらこそ、本当の友だち。…そうか、そういう「友」か…。気球さん、すばらしい解釈でした!ありがとうございます!(≧∀≦)