なごたん。(名古屋女子短歌会)

◇2014.7.25◇

【「なごたん。(得)」より13首!】
鬼・女・子供ためいきひとつずつ説得したきグラスのワイン
(いないずみ。)
得るために失っていく母親の欠けた奥歯をわたしは知らず
(綿菓子)
来たるべきその日に備え断捨離をすればスカスカ虚ろが残る
(ルイド リツコ)
拾得物係の恋は芽吹かないままに入道雲をむかえる
(ニキタ・フユ)
「損得は考えるな」と安全なエリアで叫ぶ上司は薄毛
(おちゃこ)
目の前で増えた命とうそぶけばその手で跳ねる蜥蜴のしっぽ
(気球)
クーポンが使える店から探してる どの店もまだ行ったことないね
(なのは)
いつもよりビールが売れる夜なのにスタジアムにはわたしがいない
(氷吹けい)
空を見てキレイだなぁと思えたらもう大丈夫とキミが言う夏
(劇団カルシウム)
からださえ遠くへ置いて抱きあえばわたしのものになるのだろう か
(けいこ)
アルバイト結婚式の給仕役ケーキの余りまかないに付く
(きょん姫)
点描の空を支える一点になりたかったの人差し指は
(新谷希)
勝ち取った七割引きの服を着て環状線をあと二周する
(廻)

なごたん。」こと名古屋女子短歌会のネットプリント第2弾、「なごたん。(得)」が出ました。
第1弾「失」に続き、今回もどストライクなお題に正面きって挑むあたり、さすがのなごたん。です。
今回、読んでいて、歌から読み取れる情報にとどまらず解釈が暴走する、いわゆる「読み過ぎ」が多発しました。これはけっして悪いことではなく、それだけ懐の深い歌が多いということですが、しかし解釈が合っているのか超不安。(いつものことやんけって野次が複数聞こえた気がしますがメゲずに頑張ります)
そこで今回は、解釈が比較的合っていそうな順に感想を並べました。下へいくほどカオスだよ。

鬼・女・子供ためいきひとつずつ説得したきグラスのワイン (いないずみ。)

鬼も女も子供も自分のことなのでしょう。多重人格というほどではないにしても、一人の人間に色々な人格が同居しているというのは、わりと誰しもうなずけることではないでしょうか。
この歌は、そのどの人格にもままならないことがあり、みんながため息をついている。そして鬼・女・子供のどれでもない自分が、彼らを説得しようとしている。 酩酊して彼らとの境界がぐちゃぐちゃになる前に、できる限りみんな納得して、次へ進みたい。おそらくはワインを一緒に飲んでいる恋人との関係の話なのでしょう。女性の心の葛藤、それに何とか折り合いをつけようとする健気さが切ないです。
(なんかもう、しょっぱなから誤読ぶっこいてる気がしないでもない・・; いないずみさんご容赦を…)

得るために失っていく母親の欠けた奥歯をわたしは知らず (綿菓子)

女性は妊娠出産する時に、胎児にカルシウムをつぎ込むために歯が弱ってしまい、歯周病になることが多いそうです。なのでいわゆる「親しらず」のある女性は、歯周病の温床となるため、妊娠前に抜いておく人が多いとか。(湯呑母談)
この歌がそのことを指しているのか、あるいは何らかの苦労によって歯を噛みしめすぎて欠けてしまったのを指しているのかもしれませんが、いずれにせよ母は「失って得る」激動の人生を選んで生きてきたのでしょう。
「わたしは知らず」は生まれる前のことだったから、という意味と同時に、出産をしたことのない私にはその生き方を真に理解することはできない、という思いもあるのでしょう。もちろん、「母」と「わたし」、どちらの生き方が尊いといったものではありません。絶対にありません。しかし、自分が経験することのなかった生き方を人から聞かされる時に感じるさみしさは、どんな生き方をしてきた人にもあるでしょう。なかなか向き合えないものと正面から向き合った、秀歌だと思います。

来たるべきその日に備え断捨離をすればスカスカ虚ろが残る (ルイド リツコ)

身辺整理をしたら「虚ろ」が残った、というのが面白いです。しかも「スカスカ」。この小馬鹿にしているかのような(!)「スカスカ」に、ほとんど怒りに近い悲しみを感じました。
「そんなんじゃないんだよ、物を片づけたら何もかも解決するんじゃないんだよ、片づければ片づけるほど虚ろが降り積もるんだよ!」
けっして断捨離がダメとかそういう話ではなくて(^^; すべての解決をもたらす万能薬などこの世にないと分かっていつつも、ついそれを夢見てしまう自分がいる。そんな、多くの人に思い当たるであろう苦い思いを見事に表現していると思います。

拾得物係の恋は芽吹かないままに入道雲をむかえる (ニキタ・フユ)

※初めから宣言しますが以下の解釈は超読み過ぎです(・・;

この歌は現実の話ではなく、一種の寓話だと思います。
拾得物係、つまり駅などの忘れもの管理係が恋をしたけれど、叶わないまま夏になってしまった。もくもくと湧き上がる入道雲を見上げる拾得物係くん。
入道雲は募る恋心の例えであるという他に、もう一つ重要な意味があります。入道雲は積乱雲、つまり雨雲です。入道雲の後は雨が降ります。これは「芽吹かない」恋が芽吹くチャンスです。そして土砂降りの中、拾得物係くんは気づくのです。
「僕は自分を『拾得物係』だと思っていたが、『遺失物係』ではないか?僕から見れば『拾得物』だが、失くした人から見れば『遺失物』だ。そんな相手の気持ちになれない僕だから、あの人は現れなかったのではないか」
そんな彼がふと振り向くと、夢にまで見たあの人が。めでたしめでたし。
…いかがでしょうか。とりあえずフユさんには小一時間土下座します。

「損得は考えるな」と安全なエリアで叫ぶ上司は薄毛 (おちゃこ)

一見よくある上司批判のようですが、「薄毛(うすげ)」にはっとしました。この上司もきっとかつては、無茶な命令に神経をすり減らし毛髪を減らし、長い長い苦節を経て、上司たる立場を得たのでしょう。
毛髪を犠牲にして手にした地位。あんたがミスター損得やがなと心の中でツッコみつつも、等価交換の世界の先輩に、まーしゃーないな、あんたはそこ(安全エリア)にいる権利があるよ…と苦笑している感じ。主体と上司の関係性が面白い歌です。

目の前で増えた命とうそぶけばその手で跳ねる蜥蜴のしっぽ (気球)

これは猫の話ですね!(断言)
猫ってよくトカゲをつかまえようとしてしっぽ切られて逃げられますよね。そして何が起こったかよくわからないまま、まだ動くしっぽをおもちゃにわちゃわちゃしてる。
そして、猫ってつかまえた獲物をわざわざ飼い主に見せにきたりしますよね。
「トカゲつかまえたらトカゲ2匹になったの!ほら!ほら!」
飼い主としてはどうツッコんでいいか、かわいいような残酷なような。そして実のところ猫やトカゲにとってはかわいいも残酷もなく、ただ本能に沿ってやっているだけ。畜生の浅ましさといえばそれまでですが、どちらかというと、人間がおせっかいな感傷をもっているに過ぎないように思えます。そんなおかしみを感じた歌でした。
えーとそれでは気球さん、猫の話ではないというところから解説お願いします。

クーポンが使える店から探してる どの店もまだ行ったことないね (なのは)

これはあれやね、「損して得とれ」の商売原則を客の立場から詠んだもの…にみせかけて、もっと大きなこと言うとるね。勝負事でも色恋でも、肉を切らせて骨を断つぐらいの気概のない奴はハナから負けとるちゅうことやね。どうしてわしはそう極論に走るんやろね。
#何キャラ #なのはさんごめんなさい消費者行動をどストレートに描くことで逆に深みがある歌だと思います!

いつもよりビールが売れる夜なのにスタジアムにはわたしがいない (氷吹けい)

うん。わからん。(白旗 ^^;)
スタジアム近くのコンビニ、またはスタジアム1階の売店でビールを売っているのでしょうか。野球が好きでこの仕事に就いたのに、肝心の熱戦が見られない。
これも一種の寓話的な例えで、野球に限らず、何かが好きで、それに近づきすぎたがゆえに見えなくなるものがある…という話ではないでしょうか。あるいは、半ば内輪の人間になってしまったために、もう純粋なファンの憧れではなく、様々な感情が入り混じるようになってしまった悲しみ。そのように「得て失う」ものが、誰しもあると思います。
(…画面の向こうで大ネコザメ姐さんとともに「…違う」とつぶやく氷吹けいさんが目に見えるようですもういっそ踏んでくださいー!><)

空を見てキレイだなぁと思えたらもう大丈夫とキミが言う夏 (劇団カルシウム)

この歌、「キミ」は恋人とかではなくて、いや恋人かもしれないけど、故人だと思うのです。「君」ではなく「キミ」であることの、世界を異にする感じ。
長い時間を経て、ようやく死別の悲しみから立ち上がる時に聞こえた、「キミ」からの最後の声。どこまでも明るく青い夏の空が、何とも美しく切ないです。

からださえ遠くへ置いて抱きあえばわたしのものになるのだろう か (けいこ)

この歌、最後の「か」は疑問形ではないと思いました。
詠嘆というのでしょうか、記号を補えば: 「からださえ〜だろう」か…。 です。
「からださえ〜だろう」はわかるようなわからんような(・・; まあそういう愛もあるのだろうというのが正直なところですが、私と同じく主体も、言われて一応うなずきつつも、何か釈然としないものを感じているのだと思います。なのに、相手はこちらの戸惑いに気づきもしない。ああ、この人は、この人とは、もう。
そんな気持ちが「か」に込められていると思いました。
さあ、それではけいこさん、「いや疑問形よ?」からの解説を(ry

アルバイト結婚式の給仕役ケーキの余りまかないに付く (きょん姫)

この歌は意味自体は実に分かりやすく、読んだまんまですよね。求人広告の一文なのだと思います。
面白いのは、「ケーキがまかないに付く」について読者がどう思うか、それをあえて丸投げしているところ。
幸せのおすそわけだー!うれしい!このバイトしてみよっか!なのか、いらんわゴルァ!!(# ゚Д゚)なのか、ケーキは別にどっちでもいいから時給はずめよ、なのか。反応はいろいろあると思いますが、なんとなく好意的な反応は少ないような気がします(^^;  でもこの広告の主は、ケーキを万人が喜ぶ特典だと思っている。このギャップが非常に面白いです。
まあでも、応募するのは広告主とだいたい同じ価値観の人だから、つまるところこの広告は成功しているのですね。よく言われる「就職は結婚みたいなものだ。相性で決まる」に、かつての私などはその決まり文句っぽさに鼻白んだものですが(^^; この歌のように示されると、すんなりうなずけます。

点描の空を支える一点になりたかったの人差し指は (新谷希)

点描とはその字の通り、細かな点の集合によって描かれる絵のことです。点だけにそれぞれつながってはいないわけで、したがって一点で支えることは不可能なのですが、この歌はそれをすると言っています。
この歌のポーズ、すなわち人差し指で空をさすポーズをすると分かりますが、「この指とまれ」ですね。集まって何かを成そうとしているわけです。人をまとめるのは本当にたいへんなことで、言葉は悪いですが、紐のついていないものを操縦するに等しい芸当です。
ひとりひとり独立した人格を、完全に掌握することなど不可能です。しかし全員が目的に向かって力を尽くすことで、限りなくそれに近づくことはできるかもしれません。例えばそれはなごたん。であり、あるいは先日大成功に終わった大阪短歌チョップではなかったでしょうか。
完璧はない、絶対にないと分かっていても、それでも何かを成すために、人はチームを組む。空に人差し指を立てることはとても勇気のいることで、その勇気を奮い、何かを成し遂げた人は、本当にすばらしいと思います。

勝ち取った七割引きの服を着て環状線をあと二周する (廻)

わははははまったくわからんわはははは(廻さん心底ごめんなさいm(_ _)m)
分かんないけど、全首中一番インパクトがあった歌でした。なんなんだこのつるセコさんは(^^;
七割引きの服を手に入れたことがうれしくて自慢したくて、外出したい。でもどこへ行くにもお金はかかる。環状線でぐるぐるしてれば一区間だけの運賃で済むから、何周もそれをやって、ぐるぐる回る電車の中でぐるぐる回って服を見せびらかしている。なんだこの書いてて酔いそうな光景は。
でもなんかこの人しあわせそう。人生得してる感じ。見せびらかすなんて恥ずかしい、という大人になっちゃった私たちですが、本当に欲しいものを手に入れたら、環状線を何周してでも見せびらかすのが正しいあり方であり、手に入れたモノも喜ぶのではないかとちょっと思いました。
例えば短歌の賞とか、何でもいいんですが自分が何かを得られた時、手放しで喜べる、周囲もそれを素直に賞賛する世界であり続けてほしいなあと思います。いま私の周りは幸いわりとそんな感じ。エゴサーチも公に言うのがはばかられるような、息苦しい世界が来ないことを祈ります。廻さんお歌をダシに言いたいこと言ってごめんなさい。良いダシ出ました。

===
というわけで、読み過ぎを許してくれる、伊勢湾のように情け深いお姉様たちが揃っている「なごたん。(得)」のご紹介でした!さああなたも、来訪者を得させずには返さない名古屋魂の詰まった「得」を、きんきらのしゃちほこを思い浮かべながら読んでみてください。きっと、何かが得られるはずです。

◇2014.05.11◇

【なごたん(名古屋短歌女子会(仮))の皆様の歌】
ミッテラン、ミッテランって誰って今 手を繋げそうな夕焼けのなか
(ニキタ・フユ/「短歌雑誌ネガティヴ」-14號より)
あざやかな夕陽 あざやかだった日々 海には何も投げなくていい
(氷吹けい/「なごたん。」より)
もみじ手のグリッサンドが遠のいて玩具の木琴は立ち枯れる
(綿菓子/「なごたん。」より)
私ではない人のもと帰ってく 君の背中を見失う傘
(劇団カルシウム/「なごたん。」より)
なんにつけ身軽を心がけてなおその指だけにすがるのはなぜ
(おちゃこ/「なごたん。」より)
火を投げてあなたの瞳に映したい無音の原野をどこまでもゆく
(けいこ/「なごたん。」より)
すり減った黄色い傘の先っちょでグランドに書く宣戦布告
(気球/「短歌雑誌ネガティヴ」-14號より)
得るたびに失っていく炎天にもう優しくは咲けないカンナ
(新谷希/「なごたん。」より)
資格など何もないこと知っていてなお愛してるまんまるの月
(ルイド リツコ/「なごたん。」より)
嫌われてしまっただろう充電のランプちいさく小指を照らす
(いないずみ。/「なごたん。」より)

名古屋短歌女子会(仮)という会があるそうです。略してなごたん(仮)。
女子会というと何やらキャピキャピしてそうですが、なごたんの皆様の作品群をみると、手練れの傭兵団のような凄みを感じます(※すっごく褒めてます)。色々な作風の方がおられますが、全体に甘すぎずうわつきすぎず程よい詩情で、潔くてカッコイイ。(実際の会は多分キャピぐらいはしてるんではないかと…知らんけど…)
そんな実力派集団の歌の数々をご紹介。同会の折本「なごたん。(テーマ「失」)」と、同会の綿菓子さんが「ポジティヴ通信」なるコーナーを執筆しておられる「短歌雑誌ネガティヴ」-14號より。

ミッテラン、ミッテランって誰って今 手を繋げそうな夕焼けのなか (ニキタ・フユ)

ミッテランwwwww
いいですねこの「あー聞いたことあるけど誰だっけ」な人名チョイス。(ちなみにフランスの元大統領。1916-1996←ググった) リズム的にもすごくいいです。
もしかしたら歳の差カップルを描いた歌なのかも?ミッテランなんて聞いたこともない若い世代の男の子を好きになって、いろいろ逡巡もあったけど最終的にうまくいって、手を繋げそうな、直前。ひらがなの「なか」も、全体の暖かい雰囲気に合ってていいですね。笑えて、さらにほんわかする、すばらしい歌。

あざやかな夕陽 あざやかだった日々 海には何も投げなくていい (氷吹けい)

みんなご存じ東海の雄、氷吹けいさん。どの歌も確かな実力が感じられます。 ファンすぎて評すんのこわい
「失恋して、思い出の品(だいたい指輪)を海に投げる」というありがちなシーンを逆手にとって、何も捨てるものなどない、思い出を一生抱きしめていきたい、そんなふうに優しく終わった恋を見事に表現されています。夕陽の赤の情景がまたきれいですね。

もみじ手のグリッサンドが遠のいて玩具の木琴は立ち枯れる (綿菓子)

遊ばれなくなったおもちゃって切ないですね。客観的な描写がされていますが、しかしおそらく主体はかつて木琴で遊んでいた「もみじ手」その人なのでしょう。
「グリッサンド」なんて難しい音楽用語を知っている、大人になってしまった自分。グリッサンドとはドレミファソラシドを流れるようにキャラララン♪てやるあれのことですが(はいググりました)、それが段階的に成長していく自分を暗示しているように思われます。木琴と時間の流れがうまく呼応した、きれいで哀しい歌です。

私ではない人のもと帰ってく 君の背中を見失う傘 (劇団カルシウム)

「私ではない人のもと帰ってく」はシチュエーションとしてはありがちですが、心情表現として雨が降っていること、また「雨」の語を直接使わないところがうまいと思いました。
そして何より「見失う」。これは実際には見失ってるんじゃなく、自分で自分の傘を傾けて彼の背中を見えなくしているんですね。そうして気持ちを断ち切ろうとしている。でもそれを「見失う」と他動的に言うことで、容易に断ち切れない思いが、ひしひしと伝わってきます。

なんにつけ身軽を心がけてなおその指だけにすがるのはなぜ (おちゃこ)

断捨離とか何とか世の中お片づけブームですが(※湯呑さんトレンドは世間より一年ほど遅れています)、確かに一生おひとり様でいるのが、究極の身軽なのかもしれません。しかし人間はさみしがりやで、恋愛したり結婚しちゃったりしてエントロピーを増大させちゃうものです。
もう一首の「両の手に乗らないものはいらないと言いつつ書き足す結婚線(おちゃこ)」も同様の主張で惹かれましたが、こういう業というか、人間の非合理な部分を描くのが短歌、ひいては文芸であると思ってみたり。思わなかったり。ラジバンダリ。

火を投げてあなたの瞳に映したい無音の原野をどこまでもゆく (けいこ)

「あなた」とのものすごい隔たり。でもあきらめない。いや多分まっとうな幸せはとっくにあきらめてるけど、「あなた」に何かを残したい。そのすさまじい一図さ。
音もなく燃え上がる夜の遼原が、おそろしく、でもとても美しい。情念の心象風景としてぴったりです。
(一方で「どこまでもゆく」の主語が「あなた」である可能性もあって、そうすると解釈がだいぶ変わってくるのですが…もしそうだったらゴメンナサイm(_ _)m)

すり減った黄色い傘の先っちょでグランドに書く宣戦布告 (気球)

「黄色い傘」は小学校に標準装備されている(?)あの子ども用の傘のことでしょう。「先っちょ」や「グランド(「グラウンド」じゃない)」という子どもっぽい言い方も、もちろんあえてのこと。
子どもたちだけのファンタジーな世界から、現実世界への挑戦状。なんかすんごいのが魔法陣から召喚されてきそうな感じ。「すり減った黄色い傘」のアイテム性がすばらしいです。

得るたびに失っていく炎天にもう優しくは咲けないカンナ (新谷希)

「優しくは」の「は」がすごくいい。たった一字でズンと響きます。真っ赤なカンナの花の、どこかしらくたびれ果てたようなイメージをうまく使われています。 炎天にあぶられ続けて、もう人に優しくする余裕はなくなってしまったけど、でも咲き続ける。女性の痛々しい美しさが、とても切ない一首です。
…ところで新谷さんはWeb歌集親知らずをアップしておられるのですが、これがまたすごいです。しみじみする良い歌がいっぱい(;o;)写真の編集センスも秀逸。また天がニ物を与えた人を見つけてしまった。嫉妬歯ぎしりギリギリギリ。皆様もぜひ読んでギリギリいやしみじみして下さい。

資格など何もないこと知っていてなお愛してるまんまるの月 (ルイド リツコ)

回文やアナグラムなど、言葉を自在に操ることに長けているリツコさん。今回は図形を巧みに詠み込まれています。この歌では四角と丸。(もう一首「負の証拠掻き集めては△をかってに描いて×にした罰」は三角とバツ)
「月」が主体自身なのか、それとも片思いの相手が「月」なのか意見が分かれるところですが(分かれない?)、私は前者でとりました。この場合片思いの相手は「太陽(みたいな人)」。やはり四角くなく丸であり、月(=自分)とは比較にならない圧倒的な存在。そして基本的に月は太陽と一緒にいることはできず、恋人になる資格はない。それでも愛し続ける。満月は円グラフでいう100%であり、相手に会うことすらできない勝負に全てを賭ける。ごくごく稀に起こる日食を夢見て。エエウタヤー(;∀;)

嫌われてしまっただろう充電のランプちいさく小指を照らす (いないずみ。)

好きな人を怒らせてしまった。謝ったけど、多分許してもらえない。分かっていながらも万一を信じて、とっくに照明を落とした闇の中、返事のメールを待って眠れない夜を過ごしt…って湯呑が駄文を連ねなくても誰でも一読すれば情景がありありと浮かぶわ!景の切り取り方うますぎ!!さすが「大人短歌」と書いて「いないずみ。」と読むお方!!!
この歌は「小指」が良いですね。その弱々しさ、どことない艶めかしさがすばらしい。他の何指でもダメ。薬指とかもう死刑。言葉のセレクトの間違いなさに、確かな力量を感じます。