みずつき3

◇2014.6.10◇

【「水」がテーマの合同短歌集「みずつき3」より5首!】
「浮輪ってイイすごくイイ」漂流者たちは笑って手を振っている
(加子「女は海とか言うから俺は」より)
すぐにやむお天気雨だそのような気持ちではない気持ちとかじゃない
(工藤吉生「音だけになって雨は」より)
その明度、彩度もみんな好きだった未熟な夏のしたたる水の
(高松紗都子「さびしい腕」より)
小刻みに揺れる背中に手を伸ばす午前三時の雨におされて
(麦野結香「Fool in the Rain」より)
誰でもが水着になれる訳じゃない午前一時に酎ハイを買う
(綿菓子「コップ半分の水」より)

短歌クラスタきっての敏腕デザイナーこはぎさんがまたやってくださいました。
総勢84名参加、504首掲載の合同短歌集『みずつき3』。このボリューム、もはやミニうたつかいです。これがネットプリントないしWebダウンロードできるのだからもう近未来。湯呑おじいちゃんが番茶を麦茶に替えている間に、また世の中は進んだようです。
梅雨時に合わせて、「水」をテーマとした歌を集めた「みずつき3」、したたるような良い歌が揃っています。5首引かせて頂きました。

「浮輪ってイイすごくイイ」漂流者たちは笑って手を振っている (加子)

すごくイイ(≧∀≦)
…狂気な光景ではありますが、キラキラの白い歯を見せてサムズアップしているであろう漂流者たち(湯呑イメージではアゴの割れたアメリカ人のおっちゃんたち)が、どこかうらやましい気もするから不思議です。
シチュエーションのおかしさを狙った歌だと思いますが、でもそれだけでなく、全てを失った後の清々しさみたいなものが感じられて、なんだかほっこりした気分になれる歌です。

すぐにやむお天気雨だそのような気持ちではない気持ちとかじゃない (工藤吉生)

気持ちとかじゃない!!!(#゚Д゚)
  「何気なく言った言葉が思いがけず詩的で、ポエムじゃねえよ!!と否定している」というシチュエーションにとれる一方、「気持ちじゃなく確信だ、こんな逆境すぐに終わる!!!」という強い意志にもとれます。読む人によって取り方が変わりそうで面白いですね。湯呑さんはもちろん後者にスーパーひとし君。
(ところでお天気雨ってキツネの嫁入りのことなんですね。私は普通に雨天のことだと思ってて、なんでわざわざ「天気」をつけるんだろうと思ってました。ちなみに「天地無用」は「ザツに扱って可」だと信じ込んでいた黒歴史を持つ男です)

その明度、彩度もみんな好きだった未熟な夏のしたたる水の (高松紗都子)

えっと、この歌大好きだけどちゃんと解釈できてるか自信ない…(他の歌だってそうなんだけど)
この歌はたぶん、若者がその若い一時だけ持つ、無敵の強さみたいなものを表現していると思うのです。
どんなジャンルにおいても、若者が溢れる体力とまだスレてない伸びやかな感性で、いきなり神の領域のハイスコアをたたき出すことがありますよね。短歌始めた時が一番うまかったみたいなアレです。(ちょっと違う?)
そんな彼らは美しい。一瞬だから美しい。あとはもう年経るごとにスレてスレてすり切れて、その代わり技術的なものを積み重ねていって、別の美しさを会得していく(人もいる)のです。
「明度、彩度」は色を作り出す三属性のうち二つで、あと一つの「色相」があってはじめて色ができます。なので明度と彩度だけでは色にならないのですが、ここではあえてそう書くことで、まだ何の色もついていない、透明で美しい才能を表現したのだと思います。夏という、生命力がピークの季節、若者のしたたるような才能。瑞々しさにあふれた、とてもきれいな歌です。

小刻みに揺れる背中に手を伸ばす午前三時の雨におされて (麦野結香)

このどん底感がいいですね。(麦野さんごめんなさい…)
何かもうどうしようもない状況に追い込まれた男女。そして一方は泣いている。ダメ押しのように降ってくる深夜の雨。でもその雨によって、もうこれ以上悪くなりようがない、と開き直ることができた。なけなしの勇気を出して、相手の背中に手を伸ばす主体。そこに見えるかすかな希望。
最初、主体=男性、泣いているのは女性だと思いましたが、逆もまた切ないなーと思えてきました。うん女性主体の方がいいかも。
午前三時は夜の底の底の深夜、でも夜明けも近い時間。場面設定と心情描写が、うまくリンクしている歌だと思います。

誰でもが水着になれる訳じゃない午前一時に酎ハイを買う (綿菓子)

別に午前×時の歌が好きなわけではない(^^;
この歌は上句下句が一見バラバラで、なぜ水着から酎ハイ??となるのですが、一呼吸おいて、ああそういうことか、と腑に落ちる。その乖離ぐあいがとてもいいと思います。
主体は女性、場面は深夜のコンビニで、青年誌の表紙のプロポーション抜群の水着の女性を見ている。
「まー誰しもアンタみたいなボンキュッボンだったら人生苦労せんわなー。でもその体型維持すんの大変でしょ?深夜に飲み食いとか絶対ダメでしょ?私は酎ハイ飲むよ。あとラーメンも食べるよ。脳みそシビれるほどうまいよ。私は私の、アンタはアンタの人生を楽しもうね。私アンタのこと嫌いじゃないよ。そんじゃねー」
他人の外面的な幸福をねたむことなく、自分なりの幸せを見つけていく主体の姿にはものすごく共感します。あと勝手にラーメン追加してごめんなさい。

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なお冒頭にも書きましたが、84名504首ものボリュームをネットプリントで配信できるということ、そしてこはぎさんの丁寧なレクチャーにより、出力すれば誰でも簡単に中綴じ両面刷りの本格的な製本ができること、これらはかなり画期的なことだと思います。これはつまりちょっとした同人誌ぐらいのものも、技術さえあれば非常に低コストで気軽に全国配信できるということ。もしかしてこはぎさんは、後の短歌史を振り返った時にターニングポイントとなるすごいことを、先陣きってやってのけたのではないか…と思っています。
ネットプリント期間は終わりましたが、Web閲覧ページより「面付けデータ」をダウンロードして、家庭のプリンタで両面刷り(リンク先ページに説明あり)して、こはぎさん秘伝の中綴じ法(こちらも説明あり)で綴じれば、誰でもばっちり製本できちゃいます。さあ、あなたもダウンロードして歴史の目撃者になろう!!(大げさ?・・;)