木下龍也さんの歌集「つむじ風、ここにあります」を読みました。
ヤバい。この歌集はヤバい。「ヤバい」しかボキャブラリーのない34歳もヤバい。
お気に入りの歌にフセンをつけていったら、フセンのない歌の方が少なくて本がヤマアラシみたいになったので途中でやめました。こんな打率の高い歌集は初めてです。
そんな中から5首選ぶのはなかなか拷問だったんですが、マゾなのでやりました。えっ。
休憩が終わるまであと二十分福神漬けを動かしている
この歌が心のズンドコまで響く僕みたいな人はあまりさわやかな日々を送っていないと思いますが、短歌なお友達にはわりとそういう方もいらっしゃるように思います。でも、お昼休みに皆さんが全国のどこかでツイッターしながら福神漬け動かしてるかと思うと、それはそれで僕は一人じゃなくてしあわせなんじゃないか、と思います。
神様にケンカ売ったらぼこぼこにされちまったぜまじありがとう
何となく、奇妙な師弟関係の歌みたいに思えました。毎晩のように師匠を闇討ちする弟子と、それを余裕しゃくしゃくで返り討ちにする師匠。師匠の圧倒的な力量からすればいくらでも瞬殺できるんだけど、「お前おもろいから、このへんにしといたるわ。また来いや」「…るせぇ次は絶対コロス」。
言葉のやりとりは物騒だけど、師匠に挑戦することが、実は彼の生きる支えになっている。
ぼこぼこにされる中で生への肯定を見い出した彼は、心中ひそかに「まじありがとう」とつぶやくのです。
こちら佐藤ただいま留守にしていますピイイと鳴りましたら笑って
これは最後の「笑って」の膝カックンがもちろん良いのですけれども、それより何より「ピイイ」が、「ピー」じゃなくて「ピイイ」なのがもうもうもう!!! …なんかね、ピイイが佐藤さんの断末魔のような気がするのです。
佐藤さんの命を張ったギャグ(?)が、悲しくも、面白い。
昔好きだった「まるむし商店」の漫才ネタ「ハハキトク スグワラエ」を思い出しました。(また20世紀なネタを…)
君の目を世界に繋ぎ止めるためテレビカードをたくさん買った
後半2首は、余命いくばくもない彼女との短い時間を描いた一連の作品から。
「テレビカードをたくさん買った」…あかん…ここらへんからすでに涙腺決壊…まともな感想なんか書けん…
からっぽの病室 君はここにいた まぶしいくらいここにいたのに
うぇっうぇっうぇっうぇっうぇっうぇっうぇっうぇっ(;´Д⊂)
「からっぽの病室」はそれはそれで明るくてまぶしいんだけど、そんなもん比較にならないくらい、君がいた病室はまぶしかったんだ!!! うぇぇぇぇぇぇぇ…(ほんとに電車の中で泣きそうになった)
…このように、木下さんの短歌は、シリアスなものはもう尋常じゃなく心にどストライク、コミカルな歌も笑いにとどまらない深みがあって、「つむじ風、ここにあります」はほんとに素晴らしい読みごたえでした。
いい本に出会えてよかった。木下さん、まじありがとうありがとうございました。