Inside / Outside(by 今井心さん)

◇2014.6.1◇

【今井心 歌集「Inside」より三首!】
ああ全て進化の途中の生き物と説明文を窓に貼ろうよ
札幌に住むことになる うん 僕もおもしろい人になりたかったけど
街に雪よく似た背中目で追って今は今は今永遠に去る
【今井心 句集「Outside」より三句!】
温室の蓮開ききり無音かな
I'm feeling lucky 春の雨円し
風船の重りとしての身体かな

まだ二十代前半の若さで短歌と俳句の両方をこなし、その両方で実績を出しているすばらしい才能の持ち主、今井心(いまいしん)さん。(短歌では中城ふみ子賞次席、短歌研究新人賞候補作、俳句では鬼貫青春俳句大賞受賞。他にもあったらごめんなさい)
短歌と俳句って私(湯呑)の中では全くの別物なんですが、時々こういうノーボーダーみたいな人がいるからぶったまげます。そして両方やる人でも、たいていはどちらかに重きをおいているのに、今井さんは特にどちらかを主とせず均等に打ち込んでいるから、さらにすごい。おそらく、その場その場でよりふさわしい表現方法を使い分けているのでしょう。このテーマには振り子打法、このテーマには無回転シュートみたいな。(毎度下手な例えですいませんm(_ _)m)
そんな今井心さんのすごさが詰まった対の作品集、歌集「Inside」・句集「Outside」、二冊続けてお送りします!

ああ全て進化の途中の生き物と説明文を窓に貼ろうよ

このうた超すき(;o;)
人間を水族館の生き物に見立てて、外から見ている誰かに対して「まだ途中なの、未熟で、馬鹿で、野蛮で、ごめんね」みたいな感じ。
壮大なスケールでありながら、冒頭の「ああ」によって一個人の祈りであることが強く印象づけられ、まだまだだけど、いつかきっと完成するよ、という小さな小さな自負がとても美しく思えます。

札幌に住むことになる うん 僕もおもしろい人になりたかったけど

おもろいやんけ(;o;)
こういう電話の会話風の歌というのは時々見られますが、なんでしょうこの後半の予想もしなかった展開。どんなシチュエーションやこれ。
でもそれでいて、「札幌」の寒々しさが「おもしろい人」になれなかった人の流刑地のように感じられて、しっくりはまります。って今井さんはじめ全北海道の皆様ごめんなさいm(_ _)m
しかしこのおもしろさで札幌だったら、私なんかシベリアやで。いま南極ってツッコんだ奴ちょっとこい。

街に雪よく似た背中目で追って今は今は今永遠に去る

「今は今は今」のリフレインがグサグサ刺さるわー(;o;)
ちゃんと解釈できてるか自信がないのですが、「よく似た背中」は、本当は「よく似た」じゃなくて実際に別れた恋人本人で、でもあえて確認せず別人と思い込もうとしている…と読みました。
「今は、今は、」私もしあわせになったよ。そのことをあなたに伝えたいよ。でももう、できないよ。さようなら。永遠に、さようなら。 (´;д;`)ブワッ ←感情移入しまくりの湯呑さん
最後の「今」のバツッと切られた感じが泣けます。雪の降る情景も秀逸ですね。

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続いて句集「Outside」から俳句を三句。俳句は詳しくないのでおっかなびっくり書きますがいぢめないでください。じゃあ短歌は詳しいのかよっていうツッコミがもう雨あられ。ああ全て進化の途中の(ry

温室の蓮開ききり無音かな

何というかもう本当に無音。蓮が開いている最中だって実際は音なんかしなかっただろうけど、でもイメージとして、歯車がギリギリきしみ音をたてながらゆっくり開いていった感じがしました。中の人100人ぐらいがんばってそう。開ききったら、彼らはハイタッチしながら消えていき、そして訪れる完全な無音。
…蓮と言えば極楽のイメージですが、やるべきことをやり遂げた人たちの、穏やかな死後の世界のように思えました。死ぬほど読み過ぎですいません(・・;)

I'm feeling lucky 春の雨円し

「I'm feeling lucky」は「わたしツイてる!」といった意味で、またグーグルの一足飛び検索サービスの名称でもあります。「雨円し」は円という漢字から、雨粒ではなく、雨が水たまりなどの水面に落ちた波紋がまるいということですね。
具体的には分かりませんが、春の雨の中で何事かがあり、テストの答案にマルをたくさんつけられたような自己肯定感を味わったのでしょう。そしてそれはグーグル検索のように、次のステージにジャンプできるものであったのでしょう。(受験の合格…?)
春という季節の高揚をうまく表現した、秀句(っていうのかな?)だと思います。

風船の重りとしての身体かな

「風船」は魂の比喩でしょうか。なんかドキッとしますね。空に昇りたがる風船を縛りつけて、まだ行くな、まだやることがある、と地を這い続ける「重り」。時折、何かのはずみに風船のひもをパッとはなしてしまって、あわててジャンプして捕まえたりする。 でも、年を経るごとに(物理的な重さとは別に)身体は少しずつ軽くなっていって、いつか風船の浮力が勝って、ふわりと浮きあがる日が誰にも来る。
…と延々と物語を考えてしまう、深い一句でした。ところで風船って春の季語なんだそうです(ググった)。理由は風船が飛ぶのに春の空が一番映えるから、だとか。あんまり説得力のない理由に思えますが(^^; しかしこの歌に関していえば、季節が春であることに救いが感じられて、とてもいいなと思います。

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なお、「Inside」「Outside」ともに写真歌集(句集)になっていて、これらの写真も今井さんが撮っており、めちゃめちゃカッコイイです。(ってモノがないとこで書いてもわからんよねごめんなさい…)
今回の湯呑感想は全体的にやや「読み過ぎ」(語句から読み取れないストーリーを勝手に想像して解釈に加えること。基本的にNG行為><)でしたが、それは実はこれらの写真に影響された部分が大きいです(^^; でもそれだけ写真と歌/句がマッチしていて、完成度の高い作品集であったと思います。
天が三物かそれ以上を与えたマルチプレーヤー今井心さんの、今後の作品に超期待!!そして湯呑さんいっつも読み過ぎちゃうんかっていうツッコミには耳をふさいでアーアーアー!!