2013年10〜12月の過去ログ

◇2013.10.29◇

人混みが苦手な君を誘えずに今年も山田と買うりんごあめ
(都季/第四回天神祭短歌大賞 短歌ウィーク賞受賞作品(テーマ「祭」))

こんばんは。相変わらず季節感がぶっこわれている「あるあるのうた」、地味に復活です。
秋祭りシーズンも過ぎた今宵、はりきって夏祭りの歌を取り上げますよ!!!(よくわからないテンション)

色とりどりの秀歌が集まったこの夏の「第四回天神祭短歌大賞」ですが、とりわけ私の目を引いたのがこの都季さんの歌でした。何がいいって山田ですよ山田。もう山田祭りですよ。この山田のポジション(?)、泣かせるじゃないですか(;-;)

たぶん、一番妥当な解釈としては「主体=男の子 君=女の子 山田=男の子」でしょう。
山田いい奴だ山田。「君」と祭りに行けなくてしょんぼりしている主体につきあってくれる山田の友情。もし「君」が来てくれたら、ソッコー裏切りそうな友だちがいのない主体なのに(^^;

次の可能性として「主体=(ボーイッシュな)女の子 君=男の子 山田=男の子」というのを考えました。
この場合、主体ちゃんはカッコイイ「君」にはあこがれるけど、幼なじみの山田くんにはとんと興味がない。そんなつれない主体ちゃんのこと、実はずっと好きなのに、主体ちゃんが「君」を好きなのを知ってるから、何にも言わずに祭りにつきあう山田くん。山田かわいそうだ山田。 きっときっと主体ちゃんがお前の優しさに気づく日が来るから耐えるんだ山田!!

第三の可能性。「主体=男の子 君=女の子 山田=女の子」。これがもう湯呑イチオシ。(しらんがな)
これもまた、主体くんは幼なじみの山田ちゃんにはぜんぜん興味がないんですね。そして山田ちゃんは主体くんのことが…(;o;) りんごあめを買う山田ちゃんのけなげさといったらもう。主体なぐりたいですね主体。お前なんか「君」みたいなタカビーな女に一生フラれ続けてろ!!
そして多分、1の山田くんと3の山田ちゃんがつき合うと全体に丸くおさまると思う。(だからしらんがな)

…というように、色々な山田ストーリーが湧くこの一首、脳内補完大好きな湯呑さんにはたいへんツボでした。
ふつう、固有名詞はあんまり歌に使わないし、かつそれで投稿用の歌なんてまず作れないと思ってしまうのに、その思い込みを打ち破るすばらしい歌でした。都季さんありがとうございました!

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さてさて。皆様には長らくサイト再開するする詐欺を続けて、ごめんなさいでした。もうすっかり晩秋。
まだ家族の人が戻ってきていないのと、この休止中にすっかりツイッター(@yunomihot) にハマってしまってそちらがメインになってしまったのもあって、サイトの方は今後も以前ほど頻繁には更新せず、不定期更新になると思います。 でも時々長々書きたい時もあるので、忘れた頃にまた見に来て頂けると幸いです。
また書いたらツイッター(@yunomihot)の方でも告知します。ツイッター(@yunomihot)ったらツイッター(@yunomihot)です。ツイッター(@yunomihot)大好き。←バカ

いつも見守って下さる皆様、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

◇2013.12.29<1>◇

【田中ましろさん歌集「かたすみさがし」より5首!】
春の日に手を振っている向かい合うことは誰かに背を向けること
初雪にどちらが先に気付いたか言いあらそって朝焼けの坂
ひとつだけ思い出すなら夏の日の海に浮かんだ父との写真
「わたしたち、結婚します」 すの丸が変わらず大きい君の直筆
ビー玉をのぞけば大きくなる瞳 神様よこれが僕のいのちだ
(田中ましろ/「かたすみさがし」より)

短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」や、スーツグラビア+短歌連作アンソロジー「短歌男子」で、今年も短歌界隈を大いに賑わせてくれたこの世界きっての仕掛け人・田中ましろさん。
そのましろさんの歌集「かたすみさがし」がこの秋に出ました。(ご紹介が遅くなってごめんなさいm(_ _)m)
仕掛け人らしく、コラボ企画がぎっしり詰まった前代未聞の歌集です(特設サイト)。
ましろさん短歌のずば抜けた地力を知るうたらばファンとしては、「ここまで宣伝や特典に力を注がなくても、短歌だけで十分勝負できたのでは…?」と思ったりするのですが、内輪にとどまらず、短歌に馴染みのない人にもその魅力をアピールしていく姿勢を忘れない、ましろさんの信念なのでしょう。さすがのプロ意識です。

春の日に手を振っている向かい合うことは誰かに背を向けること

もう一目惚れ。何かを得るためには、何かを捨てなければならない。春の日の旅立ちは希望に満ちているけれど、旅立つためにやむをえず捨てたもののことは、ずっと忘れないようにしたい。そんな複雑なシチュエーションが詰まった、見事な歌です。

初雪にどちらが先に気付いたか言いあらそって朝焼けの坂

情景の美しさが素晴らしい。キラキラしていますね。「言いあらそって」いるんだけど、とげとげしい感じはまったくなく、恋人同士のじゃれあいであることがすんなり分かります。「あらそって」をひらがなにした工夫も生きていると思います。

ひとつだけ思い出すなら夏の日の海に浮かんだ父との写真

この歌はましろさんのお父さんの闘病の日々を詠んだ、一連の作品の最初の歌。作品中にも胸を締め付けられる凄絶なものがいくつもあるのですが、そのリアリティゆえに、どうにもこういうものに弱い湯呑は、しっかり直視できませんでした。ごめんなさい。
この最初の歌は、まだましろさんが小さい頃の、家族で海へ行った時の思い出の写真を詠んでいるのでしょう。父の背中はとても大きくたくましく、自分は力も知恵もなくても、何もおびえることなく安心していられた幸福な日々。あとに続く、父を衰えさせていく時間の流れの残酷さを予感させる、悲しい一首です。

「わたしたち、結婚します」 すの丸が変わらず大きい君の直筆

コノ歌ニ何カコウザックリトエグラレルノハ、湯呑ダケデハナイト思ウノデス(;;) ←壊れている
こういう一行ストーリー、もうもう大好きです。

ビー玉をのぞけば大きくなる瞳 神様よこれが僕のいのちだ

この歌、いちばん好きです。ストレートでシンプルで、強い。「字余りにしてでも入れる必要がある言葉」として、この歌の「神様よ」の「よ」以上に説得力のある例を知りません。
色々なタイプの歌が詠めるテクニシャンなましろさんですが、芯のところでこういうど直球を投げてくるところが、本当のすごさだと思います。

◇2013.12.29<2>◇

【嶋田さくらこさん歌集「やさしいぴあの」より5首!】
おとうふの幸せそうなやわらかさ あなたを好きなわたしのような
結ばれるはずがなかった二人にも金色銀色降らせてよ秋
ちょこちっぷくっきーって言うときの顔好きだったとか早く忘れろ
桜草の浴衣よ咲きてよみがえれ母が乙女でありし日の夢
願わくばこの毎日がゆるやかに 〈とある未来〉 へ続きますよう
(嶋田さくらこ/「やさしいぴあの」より)

ご存じ、「誰でも投稿・必ず掲載」のすばらしき短歌同人誌「うたつかい」。
その「うたつかい」の編集長である嶋田さくらこさんがこの冬、歌集「やさしいぴあの」を出されました。

この歌集、技巧的なところももちろんすごいのですけど、それよりも女性的な感性の鋭さというか、表現力にものすごく圧倒されます。自分がたまに作る女性視点の歌とか、まとめて燃やして焼き芋でもしたくなる(^^;
選ぶ言葉からして全然違うんですね。ああこういうのが女子力なのか…(いやちょっとちがうだろ)
男の私にはきっと辿りつけない境地。でもだからこそ何だか安心して、あたたかい気持ちで読めます(^-^)

おとうふの幸せそうなやわらかさ あなたを好きなわたしのような

おとうふ、いいですね。おみかん、とかも好きです。(しらんがな)
豆腐が幸せそうとか、食べてもらうために自らやわらかくなってるとか、私には絶対考えつかないなあ…。豆腐から無償の愛を思うなんて。もはや短歌抜きで、実生活向けにその感性をカケラでもほしいです(^^;
ひらがな多めのやわらかさ、私が真似できるとしたら多分それだけだなあ。

結ばれるはずがなかった二人にも金色銀色降らせてよ秋

うたらばvol.4「みのり」で初めて見た時から一目ぼれの歌。
「降らせてよ」の唇をとがらせた強がり感(?)、いいですね。「金色銀色」の情景も、すごくきれい。
根拠はないのですが、「結ばれるはずがなかった二人」は他者ではなく、自分たちのことを言っているように思います。別れがつらくて直視できないから客観視している。そこに金色銀色が降って美しく幕が引かれれば、いつか長い時間が過ぎた後で、胸を痛めずに回想できるようになるのでしょう。エエウタヤー(;o;)

ちょこちっぷくっきーって言うときの顔好きだったとか早く忘れろ

実はこの歌いちばん好きかも(^^; ちょこちっぷくっきー。
i音が3回あって、写真撮影の「チーズ」と同じように、笑ったような顔になるんですね。
恋人は普段あんまり笑わないけど、けっしてノリが悪いわけではなく、ちょこちっぷくっきーって言って、って言えばやってくれる優しい人だったのでしょう。ちょこちっぷくっきーのコミカルな響きと字面が、結句の「早く忘れろ」の叩きつけるような悲しみとの落差を増していて、切なさ倍増です。
こうした表現における、落差って大事ですね。例えて言えば、揚げ物で天ぷら粉をよく冷やしてから揚げると温度差でより一層カラリと揚がるみたいな。(ここまでの流れが台無しの例え)

桜草の浴衣よ咲きてよみがえれ母が乙女でありし日の夢

母から娘へ受け継がれる浴衣。浴衣に描かれた桜草は、袖を通されることによって初めて「咲いた」と言える。
長年の眠りから覚めて一斉に咲く桜草。これもまたきれいな情景です。文語調になっているのも、歴史というか長い時間を感じさせて良いですね。

願わくばこの毎日がゆるやかに 〈とある未来〉 へ続きますよう

さくらこさんのブログ「さくらんぼの歌」で初めて掲載された時にちょっと泣いた(;o;)歌。
誰にも〈とある未来〉のビジョンがあって、でもそこになかなかたどり着けなくて、絶望したり、一足飛びに行ってやろうと無茶をして体を壊したりするわけです。 でも、遅々として進まないこの毎日こそが、きっと〈とある未来〉と地続きになっていて、少しずつでも近づいている。一足飛びに行ける未来なんかニセモノだから、ゆるやかに、続いていればいい。
祈りのかたちでありながら、まっすぐな意志が感じられる、素敵な素敵な歌です。