第4回「空き家歌会」詠草紹介、第3弾!ななななな長いよー!
K さみどりの巨峰はかたくやわらかく色づくためにふれあう果肉 (香村かなさん)
福島多喜さんが水を得た魚のようにAT読みを展開していた歌。
ATって何ぞや?については、ムッツリスケベ西日本代表の湯呑には説明できないので以下をご参照下さい。
・福島多喜さんブログ「恋愛中毒」
・倉野いちさんブログ「LTBS」 お二人ともご紹介ありがとうございますm(_ _)m
で、わたくし湯呑なりの感想…いや、批評ですが。
ATとまではいかなくても、確かに思春期の少年少女の純粋かつ危なっかしい感じがイメージされる歌でした。
歌会では、「かたくやわらかく」が意味的に連続しないのにくっついているのはどうか、ということや、巨峰の実同士なら、ふれあうのは「果肉」ではなく「皮」だろう…という点が指摘されており、それは私もひっかかった点でしたが、しかしそうしたことはさておき、巨峰の一粒一粒を少年少女に見立てるという発想はすごいと思いました。例えば、巨峰の一房を中学校の一クラスに見立てたら、みんな薄皮に包まれているだけの危うい弱さでありながら、おずおずとふれあうことで少しずつ成長し、きれいに色づいていく…というイメージにぴったりと思います。
あと、歌会では「巨峰」という固有名詞よりも単に「ぶどう」の方がよいのでは?という意見が出ていましたが、私は「巨峰」の方が字面的にたわわたわわ感(?)があって、粒々たちの最終目標という感じで良いと思いました。巨○!たわわ!みたいな!(←ムッツリがんばった)
L 夏痩せた身体は風にはこばれて鳥居をくぐれば新しい街 (安達洸介さん)
これは一読して安達さんの歌と確信しました(^-^)
短歌の題材として、社会や人間関係を詠む人が圧倒的に多い中で、安達さんの、自然と一個の人間との関わりの中でふと見つけた美しさ、温かさを描いていく手法(「自然詠」ともまた違う)は独特のオーラを放っており、最近の大注目です。
歌会でも言いましたが、「鳥居をくぐれば新しい街」は実際に新しい街にたどり着いたのではなく、夏風に吹かれて鳥居をくぐれば、いつもの街が新しい街になる、という一種の呪術のように読みました。物理的には何も変わっていないけど、そこは昨日までとは違う街。心機一転のすがすがしさが、とても心地よい歌です。
(うう、何もボケられなかった…多喜さんの気持ちが分かる…)
M ここはヒレここはロースとわたくしのからだでたとへばなしするひと (龍翔さん)
「歌会には魔物がおるのぢゃ…」(村の長老風)。
知らぬとはいえ、かねてより大尊敬かつ大ファンである龍翔さんのお歌に、「今いくよくるよの漫才みたいで既視感がある。ベタだ」などと超上から目線でコメントしてしまうとは…八十方美人湯呑にあるまじき失態!龍翔さん本当にごめんなさい!!!
本当は、「この歌はコミカルな感じながらも、これを実際にやるなら、特にヒレは局部付近の肉であって(※安達さんによると人間にヒレはないそうですが、牛の部位になぞらえるならば)、よほどの仲でないと指し示せず、主体と『たとへばなしするひと』との親密さ、そして主体がその親密さを誇っていることまで読み取れて、深い歌です」と言うつもりでした。しかし既にどなたかが大筋で言ってしまわれたので触れられず、いくよくるよだけになってしまいました。
今後の反省として、良くないと思う点を挙げたらできる限り良いと思う点も挙げる、良い点は誰かとかぶっても、「それが良いと感じた人が複数いる」ことを示すために少しだけでも触れておくようにしよう…と思いました。龍翔さんごめんなさい!いくよくるよ師匠もごめんなさい!漫才大好きです!
N 十年で肥った君の体積が 世界に増えて嬉しく思う (山猫さん)
またまたまた皆様と私の解釈が違った歌。ぼく病院行ったほうがいいのかな。
皆さん「君」を「妻」と読んだのですね。私は母がわが子の成長を喜んでいる歌だと思って疑いませんでした。
「『君』が子どもである場合、『肥った』のイメージが悪すぎる」という意見もありましたが、私には田舎のおばあちゃんが久々に孫を見て「おうおう、よう肥えて、大きゅうなって。ありがたいのうナンマンダブナンマンダブ」みたいなイメージで、そんなにデブデブに太ってるんじゃなくて、健康優良児(ふるい…)的な大柄な子どもを想像しました。ああしかしなんでこんなに発想が昭和なんだろう自分。
それともう一つ、「肥った」と「体積が世界に増えて」は同じ意味が重複していてよくない…という意見がありましたが、私はこれは気にならなくて、何で気にならなかったのか後で考えてみるに、(あくまで母子の歌と解釈するならばですが)子どもの成長がうれしくてうれしくて、「大事なことだから二回言いました!」的な親バカ全開な感じで、むしろほほえましかったからかな…と思いました。(わぁどんどんみんなと解釈が乖離していくね!)
そのもう一方の「妻」として読む方の解釈ですが、「結婚十年、自分(夫)という赤の他人との暮らしにストレスを感じることもなく、安らいでいる証としての妻の肥満。喜ぶべきことだ」…これはこれで面白いですね。ポジティブ短歌を提唱するサイトの主としてはやはりこちらでいくべきか。
うーん、でもやっぱり妻は…ゴニョゴニョゴニョ…(全ての女性読者とリアル妻を敵に回した湯呑さん)
O 肉牛が肉骨粉を食うように罪深くしかしそれでも生きよ (牛隆佑さん)
どうしようもなく生々しい現実をつきつけて、でも最後に一筋の希望というか救いがある。一読して牛隆佑さんだ!!と確信した歌でした。
重いテーマに沿って、「肉骨粉」という字面のおどろおどろしさ、「食べる」ではなく「食う」、リアルさを出す言葉のチョイスがうまいと思いました。
歌会では、安達さんが「肉牛が肉骨粉を食べてたって、それしか与えられてないから選びようがないんだし、いやそもそもカマキリやなんかが共食いしたって、それは生き物として当然のことで、罪深くもなんともない!この例えはおかしい!」と、安達さん前世は何の生き物だったんだろう?という勢いでこの歌を批判していました。
それは確かに、非常に説得力のある意見だったと思います。
うーんしかし、「罪深く」は確かに対象を非難する意味合いだけど、ここでは「どうしようもないけど、悲しいことだよね」といったニュアンスで、時に他人を踏みつけて進まねばならない場面もある人生、それを悲しいと思う気持ちをけっして忘れず、しっかり生きていこう…と私は読みました。
人間以外の生き物は、共食いを悲しいとか思わないかもしれない。でも人間だから、それを悲しいと思えるだけの知恵をもって生まれた人間だから、悲しみを背負い続けて、いつかその原因をなくすことを目指して生きていこう。そんな感じ。
安達さんに対抗するため、もはや解釈を突き抜けてアルゼンチンに出てしまったような強引すぎる読みですが、普段考えないこういう哲学的?なことを恥ずかしがらずに考えられるのも、歌会の良さだと思います。
というわけで、第4回空き家歌会全首紹介でした!
改めまして、どしゃべりな人ばかりでなく控えめな人も意見が言えるように心を砕いていた司会・牛隆佑さん、牛さんのムチャ振りと多喜さんのATフィールドに愚痴りながらも一つ一つの歌を見事に総括していたむしたけ会長、議論が停滞する度に目の覚めるような一言で方向性を作り出す膠着ブレイカー江戸雪さん、素敵な名札ポールとおいしいフルーツを用意してもてなして下さった新妻じゃこさん(かいがいしい!)、そして個性あふれる参加者の皆々様、事前に歌の評を寄せて下さった方々、楽しい時間をありがとうございました!
新しい血を入れながら、常に変化していく空き家歌会。今後もぜひ参加したいですが、参加できなくても、ずっとずっと何らかのかたちで応援していきたいと思います!!
泣く子も読んじゃう短歌なzine(雑誌)「うたつかい」の4月号が届きました!
今回も投稿歌人がまた増えて128人!700首以上の中から断腸の思いで3首選です。
瀧音幸司さんの歌は、「フォッサマグナ」のカタカナの迫力にただただ圧倒されまくり。
ちなみに、文系一直線の湯呑には「フォッサマグナ」はなんとなく火口からキツネがどっかんどっかん吹き出してるお祭りみたいなイメージです。
山田水玉さんの歌、もーもーもー、こういうの大好き。菅野美穂大好き。違う。
「返してほしいだけだよ」の無理して強がってる感が。下くちびる突き出した感じが。菅野美穂の。
柳原恵津子さんの歌、ぶんまわせえええ!!!たったひとりのために!!!愛!!!
…空き家歌会でかなり論理的な読みをしたので、今回はフィーリング重視で選びました。
(あれのどこが論理的なんだっていうご意見には耳をふさいでアーアーアー)
一目惚れでいいんだよ!理由なんざあとから追っかけてくるんだよ!いいからつきあっちゃえよ!(?)
…あと空き家メンバーの歌がやっぱりビンビンきたので、ここには載せないけどそれぞれのページに追加。
むしたけさん、まひろさん。牛隆佑さんもすごくよかったけど既に当サイト掲載数が10首超えの引用しすぎなので自重。うしらば。それとじゃこさん(やはり10首超え)の作風がえらい変わりようで、師匠ぼくもその境地に連れてって下さい。
あーまた行きたいなあ空き家。完全に道順忘れてしまった空き家。人生の路頭に迷ったらふっと目の前に現れそうな空き家。(すっかり空き家の話になったところで、以上うたつかい4月号レビューでした!)
山本まともさん(@amazo3)が企画されたWebイベント「地方対抗短歌戦」に、近畿勢の一人として参加しました!
「地方対抗短歌戦」は、日本全国11ブロックの歌人が激突する戦国短歌バトル。誰でも投稿・投票できるシステムで、実に112名が投稿、151名が投票していました。
公平を期すため、比較的人口の少ないブロックには得点補正倍率が設けられ、最大倍率の北陸は最低の南関東のなんと7倍の戦力補正。足軽隊を戦車で蹴散らすようなこの戦国自衛隊的(?)な工夫によって勝負は白熱し、ワイワイ楽しいお祭りでした!
戦いを制し、「短歌キングダム」を勝ち取ったのは最北の精兵軍団、北海道勢。近畿勢は惜しくも2位でした。
詳しくは、嶋田さくらこさんのブログ「さくらんぼの歌」ですばらしいまとめをされていますのでご参照下さい!
そして…なななななんと、西村湯呑、まさかの個人得票1位を獲得しました!号泣!(ToT)
(良い終わり方など分からないけれど)さいごの線香花火、灯すね。 (西村湯呑)
ちょうど某美少女グループが総選挙をしていた夜、こちらではまさかのおっさんが1位とかほんとすいませんマジですいません。顔だけは殴らないで下さい。
…というわけで(どういうわけや)、以下、同イベントで私が投票した歌を紹介します!多分史上最高に長いー!
みな同じ行方同志と笑ふひと 白きひかりはホスピスに満つ (高橋徹平さん)
今回一番好きだった歌。死を待つ人たちのすがすがしい明るさ。これにかなうポジティブはありません!
(自分の歌が全然ポジティブじゃなかった某ポジティブ短歌サイト主より。)
誰だっけいつも二人でつるんでた柴犬に似てる方じゃない方 (泳二さん)
「じゃない方」ネタやってみよう、まではわりと誰でも考えると思うけど、まさかの柴犬。秀逸すぎるチョイス。
「つるんでた」が醸し出すノスタルジーも素敵です。
(昔のクラスメートを思い出してるような感じですよね…?違う?)
イエティがいない方には賭けるけどあなたのことを好きにはならない (二玉号さん)
「何でも常識で考える大人になった自分。でも、イエティを一笑に付すような人は嫌い。
今も心の奥の奥には、陽光輝くヒマラヤの雪原に立って、咆哮をあげるイエティがいる」
…そんな感じ。われわれ三十代にはイエティとかネッシーってだけでなんかもうノスタルジック。
小学生の頃はオカルトブームで、霊とか超能力とか未確認生物とかそんな本ばっかし読んでたなあ。
(当時愛読書だった学研まんが「いる?いない?のひみつ」では、まんがに出てきたヒマラヤの怪物・イエティの鳴き声が「イエーッ!イエーッ!」でした。子どもなめとんのかって子ども心に思った)
昼飯もシリアルでいい 洗濯は明後日くらいにした方がいい (山本まともさん)
むきりょくー。かんじでかけないぐらい、むきりょくー。もうばんめしもしりあるー。るるるるー。
(ときどきこういうひもあるのでだいなっとくのうたです。ってまともさんのうただった!おつかれさまです!)
大根の太さくらいのルマンドをください恵方巻の代わりに (猫丘ひこ乃さん)
ルマンドww向こう20年ぐらい無病息災でいられそうwww
なお、この歌へのじゃこさんのコメント「めっちゃカス散らかりそう。」が今大会最高に吹いた賞でした。
午後二時のスタバでホワイトチョコレート生き方はひとつではないから (西巻 真さん)
ごめんなさい!この歌、投票時は「午前二時」と読み違えてて、深夜に甘い甘い美容と健康に悪そうなものをあえて飲む、意味深な歌だと思ってました。そんな時間スタバ開いてねえよ。
「午後二時」だとフツーの時間帯でわざわざ言わなくてもいい気がしますが…。でもこの歌、「上の句から下の句への転換の意外さ、だけど言わんとすることはなんとなく分かる」というところは、やはりすごいと思います。
週末に社員旅行が控えてて来週末の方が楽しみ (あみーさん)
あかんあかん!それを言うたらあかん!みんな思ってることやけどあかん!
言うたら心がぽきって折れよる! ぽきっ。
おはなしにならないような関係をつづけ方々で惣菜を買う (山中千瀬さん)
何らかの事情で一緒に暮らせない二人が、買ってきたお惣菜を並べて作るイミテーションの家庭。
めでたしめでたしで終わることは、きっと、ない。
「でも今、今だけは、あたし、いっとうしあわせよ」
(´;ω;`) エエウタヤー ※漂う昭和臭は全面的に湯呑の責任です。
体内に方位磁石を携えて生まれてくるのだろう男は (香村かなさん)
これは男女の「性差」の一つ、「男性の方が方向感覚に優れている(逆に言えば女性は方向音痴が多い)」ことを詠んだ歌と思いました。人類の進化の過程で、狩猟をするために外に出ることが多かった男性は、方向感覚が発達したそうです(なんかで読んだ)。
「あいつら方位磁石もってんだから、はなから勝負になんないんだから、くよくよすんのやめよ。私は私でいいとこあるさ」みたいな雰囲気が好きです(読み過ぎ?)。
もちろん、女性の方が優れている点もあります。よくお腹を壊す湯呑さんは、女性の免疫力の強さがうらやましくてなりません。
正露丸生成装置を胃に備え生まれてくるのだろう女は (西村湯呑)
乱暴な靴の脱ぎ方する君を一方的に愛してしまう (鈴木晴香さん)
後先などまったく考えずに目標につっぱしる人の、刹那的な美しさってありますね。
女性はさらに母性本能もくすぐられるのか、こういうつっぱしり系男子は確かにモテるんだなあ。
(つっぱしり系をかたちだけマネては連敗を重ねていた某経験者談)
ぽっと出のこいつに負けてなるものか鬼がこっそり食む恵方巻 (姉野もねさん)
「鬼」がこの先「ぽっと出のこいつ」のかませ犬になりそうな予感が止まりません。
恵方巻パワーもむなしく。南無。
方言で寝言呟くひとが去り解読出来ぬ謎だけ愛す (綿菓子さん)
「ほんなにいかいうばがもち…おおきに…よばれるほん」
君がいなくなる数日前に、寝言で呟いていた方言らしき言葉。
何のことだかさっぱり分からないけど、でも、調べない。
変なイントネーションの標準語で強気に話す君が、「東京生まれ」と言い張る君が、大好きだったから。
(…そんなしんみりストーリーが浮かぶ、良い歌でした!)
※冒頭の寝言は、滋賀弁で「こんなに大きな姥が餅(滋賀県草津市銘菓)ありがとう。頂きます」の意味。
うつむけばこぼれる髪をかきあげる指が四方にひかりをはなつ (高松紗都子さん)
描写されている人物は髪が長い=女性、したがって主体は男性。
男性でここまで手放しに女性の美しさを褒めるのって珍しいので、思わず投票。
(…ってコメントを書いたら思いっきり女性作者だったので琵琶湖にロケットダイブ)
先シャワー浴びてこいよの言い方がキモくて湯船ためてるところ (じゃこさん)
ささやかな抵抗。でも逃げたりはしない。よかったね、えなりくん。(違う)
思い出がはるか彼方で交差する真っ白雲の中に隠れて (トーヤさん)
「昔のある思い出と、また別の思い出に、思いがけない接点があるように思えた。
夏雲のうしろで、それらが交差してキラッと光ったような気がした。見えないけど、でも、きっと」
…「根拠も何もないけど、自分の中で何かににすごく納得した」時の気分をうまく表現した歌だと思いました。
さわやか感がとてもイイ!
以上!すばらしいイベントを企画されたアイデアマン山本まともさんに大拍手!!この短歌戦の結果一覧は、現代ツイッター短歌界のデータベースにもなるすごいものだと思います。たいへんお疲れ様でした!
もう第2回は(まともさんは)されないそうですが、誰でもできるかたちにまでイベントモデルを完成させたことは、本当に歴史に残る偉業だと思います。
まともさんがまた我々には想像もつかない新しいアイデアを披露し、ツイッターが再び熱狂の渦に呑み込まれる日を、今から楽しみにしています!
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<お知らせ>
さすがにこの文量は疲れたので、一回お休みして次回更新は6日後の土曜日にします!
(私以外誰も3日おき更新とか気にしてないのかもしれないけど…)
みんな大好き「題詠blog」。10ヵ月の期間内に、100個のお題を1つずつ詠み込んだ100首を投稿していく別名「題詠マラソン」は、毎年300人前後が参加するWeb短歌界屈指の人気イベントです。
その題詠blogが昨年10周年を迎えたことを記念し、イベント参加者による合同歌集「短歌、BLOGを走る。2012」が出版されました。恥ずかしながら、わたくし湯呑の歌も載せて頂いてます。
この本は、希望者が費用を出し合って出版社に出版してもらうかたちの、共同出資の自費出版です。題詠blog2012完走者という条件はありますが、完走者であり所定の費用を払った人なら誰でも、題詠blog投稿歌から自分の好きな歌10〜12首を載せてもらえます。
あ!今あなた「自費出版か…」って顔したでしょ!でしょでしょ! …いや、その気持ちは分かります。
でもでも、参加者みんな、渾身の10/100首を出してくるんですよ。これはすごいことですよ。じっさい某N村氏を除いてみんなすごかった。今回、10首だけ紹介だけど、倍じゃきかない数の良い歌てんこ盛りでした。
某Y呑氏はネタっぽい歌ばっかり出したら真面目な歌に両脇を挟まれて浮きまくるという羞恥プレイで泣きそうになってる(自業自得)のだけど、それでも黒歴史として封印せずに、この本を全力で宣伝します!
…ハイ、というわけでいつもながらの長い前フリを経て、ピックアップ歌の感想です。
眠らずに隣にいない人のこと考えるとき闇はやさしい (ややさん)
「闇」が「やさしい」という意外な視点。でも、全体を通してすごく共感できる。
布団に入っても眠れない夜は、暗闇の羊水に包まれているような気分になりますよね。
(なんとなく「やや」さんのお名前からの連想かも…)
日が射せばもうそれだけで春ですね因果っていう言葉、好きです (中村成志さん)
春ですね!!(夏です)
因果っていう言葉をまさかのポジティブにもってきて、なお大納得させてくれた中村成志さん、好きです。(えっ)
ひとつ前のややさんの歌もそうですが、通常その言葉が持つイメージを覆す歌にシビレます。
不良がこっそり捨て猫にミルクやってるみたいな。ちがうか。(次の歌に続く)
野良猫の子猫の爪のどうせなら逆賊と成り果ててしまえよ (み さん)
そ、そんなつぶらな瞳でオレを見るなよ!ニイニイかわいい声で鳴くなよ!
野良だろ!その爪研いで、Sザエさんと互角に戦って胸に七つの傷を残すぐらいの武勇伝つくれよ!
う、うちじゃ飼えないんだよ!ばか!ばか!(泣きながら駆け去っていく不良くん)
渋柿の渋が抜けゆく不思議さと思えるほどの心変わりだ (紗都子さん)
これは私の中で二つ解釈がありまして。
一つは「あいつのこと嫌いだったけど、最近気になる。私どうしたんだろ」※MajiでKoiする5秒前です。
もう一つは「ひねくれ者のあの人が、最近急に優しい。どうしたんだろ」※MajiでKitokuの5秒前です。
いずれにしても「悪感情が時間とともに消えていき、甘く優しい心持ちになる」ことの表現が素敵でした!
何億の食物連鎖の頂点に速水もこみち握る包丁 (天鈿女聖さん)
もこみちwww (*´艸`)
題詠blog名物、うずめさんのネタ短歌。同じネタの道に生きる者として、うずめさんの歌はただ面白いだけでなく、対象のイメージのとらえ方が絶妙なので嫉妬しまくりです。もこみちもイケメンな上に料理ができて嫉妬です。
ちなみにこの記事書くためにググったら「『もこみち』という名前は本名である」というこの世で3298番目ぐらいにどうでもいい知識が得られたので皆様にも広めます。
残り5首はまた次回!次回もあんな人やこーんな人が!(←そればっかし)
「短歌、BLOGを走る。2012」 後半もすごいぞー!(←もっとなんか言い方ないんか…)
熱帯は遠いでしょうか 純愛をしておりますが行けるでしょうか (たえなかすずさん)
「熱帯」は出すとこ出してたわわになった(古っ)恋の楽園な感じで、手をつなぐこともできない純愛な二人には遠い遠い世界。「行けるでしょうか」なんて丁寧に聞いているところがもうドン底な感じですが、なんかめっちゃ応援したい二人でもあります。
いつの日かあんたらと巡りあえるなら大西洋に沈む大陸で (Jingoさん)
「あんたら」が私の中で圧勝した歌。「あんたら」いいよ「あんたら」。
後半の何だか壮大で、ともすればぼやけてしまいそうな世界が、「あんたら」のマッチョでちょっと野卑な感じによってリアルさを帯び、しっかり色がついた気がします。そうは思わんかあんたら。
手の甲に忘れないようマジックで六時起床と書いて就寝 (珠弾さん)
この歌は題詠blog2012で、フユさんの「喪」の歌と並んでベストオブ吹いた賞でした。
こういうの好きやわー。もう嫉妬が湧いて湧いて源泉かけ流しやわー。
靴紐を締めるあなたの奥底に雪なんか降るな。降るな、絶対。 (柳めぐみさん)
題詠blog2012に参加していた当時から気になっていた柳めぐみさん。愛しさや悲しみの表現が、すごく上手い方だと思います。この歌もそうだし、「短歌、BLOGを走る。2012」には載ってないけど、お題「拭」の:
食卓のあなたの席を拭きながら泣かなくなった自分に気づく (柳めぐみ)
…にはかなりくわーってなりました。くわーって何だって聞かないでね。
そしてこの柳めぐみさん、先日6/6の「うたつかい」4月号紹介記事で歌を紹介させて頂いた「柳原恵津子」さんと同一人物であることに今頃気づきました。またすごい人見つけたって思ってたのに。くわー。
(…あ、さっきから掲載歌の解説ぜんぜんしてない。この歌は、出征する夫を見送る妻のような…絶対違うけど…静かで強い強い愛情が伝わってくる、大好きな歌です)
童話なら三人姉妹の末っ子はいちばん賢く素直だけれど (五十嵐きよみさん)
五十嵐きよみさんが三人姉妹の末っ子かどうかは知りませんが、「〜だけれど」で終わることで、自分の劣等感とか、世間の期待に応えられないつらさとか、書かれていないのに実際に書かれているよりずっとヒシヒシ伝わってくるところがすごいと思いました。こういうのって人がやってると簡単そうに思うけど、自分じゃ200年たっても思いつかないんですよね。
「童話」っていうのも、容赦ない現実との対比がよりくっきりするうまい工夫だと思います。長男かつ末っ子という、どないせえっちゅうねんポジションにいる私には響く歌でした(^^;
最後の五十嵐きよみさんは、「題詠blog」の11年にわたる主宰者であり、この「短歌、BLOGを走る。2012」も発起人として、資金集めから詠草取りまとめ、発送に至るまで一手に引き受けてこなされたすごい方です。
いつも思うのですが、私のような駆け出し歌人に、このように歌を発表できる場を提供して下さる方々には、本当に感謝してやみません。五十嵐さんの題詠blogを通じて、何百人という方が短歌同好の輪を広げたことを思うと、その偉業に気が遠くなります。私も題詠blogに参加したことで、鈴木麦太朗さんをはじめとする素敵な方々と出会うことができました。
出す歌もネタなら評までネタに走ってるヤツがいうのもなんですが、このように不断の努力で短歌インフラを支え続けている方々への感謝を忘れず、少しでもその恩に報いられるよう、これからも常にその時その時の自己ベストをぶつけて、場全体を盛り上げていきたいと思います。(またハードルを大気圏外まで上げちまった…)
木下龍也さんの歌集「つむじ風、ここにあります」を読みました。
ヤバい。この歌集はヤバい。「ヤバい」しかボキャブラリーのない34歳もヤバい。
お気に入りの歌にフセンをつけていったら、フセンのない歌の方が少なくて本がヤマアラシみたいになったので途中でやめました。こんな打率の高い歌集は初めてです。
そんな中から5首選ぶのはなかなか拷問だったんですが、マゾなのでやりました。えっ。
休憩が終わるまであと二十分福神漬けを動かしている
この歌が心のズンドコまで響く僕みたいな人はあまりさわやかな日々を送っていないと思いますが、短歌なお友達にはわりとそういう方もいらっしゃるように思います。でも、お昼休みに皆さんが全国のどこかでツイッターしながら福神漬け動かしてるかと思うと、それはそれで僕は一人じゃなくてしあわせなんじゃないか、と思います。
神様にケンカ売ったらぼこぼこにされちまったぜまじありがとう
何となく、奇妙な師弟関係の歌みたいに思えました。毎晩のように師匠を闇討ちする弟子と、それを余裕しゃくしゃくで返り討ちにする師匠。師匠の圧倒的な力量からすればいくらでも瞬殺できるんだけど、「お前おもろいから、このへんにしといたるわ。また来いや」「…るせぇ次は絶対コロス」。
言葉のやりとりは物騒だけど、師匠に挑戦することが、実は彼の生きる支えになっている。
ぼこぼこにされる中で生への肯定を見い出した彼は、心中ひそかに「まじありがとう」とつぶやくのです。
こちら佐藤ただいま留守にしていますピイイと鳴りましたら笑って
これは最後の「笑って」の膝カックンがもちろん良いのですけれども、それより何より「ピイイ」が、「ピー」じゃなくて「ピイイ」なのがもうもうもう!!! …なんかね、ピイイが佐藤さんの断末魔のような気がするのです。
佐藤さんの命を張ったギャグ(?)が、悲しくも、面白い。
昔好きだった「まるむし商店」の漫才ネタ「ハハキトク スグワラエ」を思い出しました。(また20世紀なネタを…)
君の目を世界に繋ぎ止めるためテレビカードをたくさん買った
後半2首は、余命いくばくもない彼女との短い時間を描いた一連の作品から。
「テレビカードをたくさん買った」…あかん…ここらへんからすでに涙腺決壊…まともな感想なんか書けん…
からっぽの病室 君はここにいた まぶしいくらいここにいたのに
うぇっうぇっうぇっうぇっうぇっうぇっうぇっうぇっ(;´Д⊂)
「からっぽの病室」はそれはそれで明るくてまぶしいんだけど、そんなもん比較にならないくらい、君がいた病室はまぶしかったんだ!!! うぇぇぇぇぇぇぇ…(ほんとに電車の中で泣きそうになった)
…このように、木下さんの短歌は、シリアスなものはもう尋常じゃなく心にどストライク、コミカルな歌も笑いにとどまらない深みがあって、「つむじ風、ここにあります」はほんとに素晴らしい読みごたえでした。
いい本に出会えてよかった。木下さん、まじありがとうありがとうございました。
こんばんは。クーラーと自由詠が苦手な西村湯呑です。ロングラン残業な日々ですっかり更新が止まってごめんなさい。そのわりにツイッターで短歌連投してたのはモゴモゴモゴ。
さて!(目を泳がせながら)6月15日放送の「歌会たかまがはら」 お題「酒」で、ゲストの飯田彩乃さんに掲載歌を選んで頂きました!ありがとうございます!
また、飯田彩乃さんは私の質問「コレ読んどけ!っていうものがあれば教えて下さい」にも、放送内&ブログで丁寧に答えて下さいました。しばらく読むものに困らなさそうです(^o^)ありがとうございました!
ところで今回の放送では、ゲスト・飯田彩乃さんは実際はスタジオにいなかったようです。
(カエル人形のかたちで、いたのはいたんだけどさ、そういうお約束はおいといてうわなにをするやめ)
…すいません黒ずくめの人たちからいま家に帰されました。えっと、飯田彩乃さんは確かにマジにパねぇほどにスタジオにいたということで。むしろカエルって何ってことで。ハイ。
それはそれとして、遠隔地から声をとばすかたちで放送にゲスト参加できるなら、距離を超えて、関東はおろか東北、北海道、はては海外の人気歌人さんがゲスト出演できるってことで、夢がひろがりんぐですね。
さとうはなさん(カナダ・トロント)出てほしいなー。たきおとさん&山本左足さん(岩手)出てほしいなー。
いやもう、世の中進んでるなー。湯呑おじいちゃんはガラケーを抱きしめて遠い目で見ております。
というわけで、今後の展望がドカンと明るい歌会たかまがはら。(無責任にあおってごめんなさい…)
次回のゲストは「短歌男子」で若年ファン急増中の天国ななおさんです。お題は「キス」。
(えっ)(二度見した)(でも意外とソッコー3首できた)(えっ)
う、牛のアニキ、カッコエエ…(* ゜д゜*)
全国53万人(推定)のうしりゅーファンが泣いた、ずっこいぐらいにかっこいい歌です(^^;
「ずっとつかめないしあわせを追うなんて…」と、思わないでもない。
でも、ここでいう「しあわせ」は、書くことで身を立てたいとか、A川賞とかN木賞がとれる名作を書きたいとか、ペンは剣より強しを実践したいとか、そういう少年の頃のキラキラした想い、夢のことだと思います。
(あ、牛さんじゃなくて某Y・Nさんの中二病全盛期の頃の話です念のため^^;)
今はもちろん、それがどれだけ大それたことか、手の届かないものか分かってる。でも、心の隅っこにはキラキラのキぐらい残して、まずは新人賞応募してみよか、ぐらいの冒険心をいつだって持ち続けたい(まだそれもできてないけど…)。続けていればきっと、描いていたものとは違っても、いつかどこかの地平にたどり着ける。そんなふうに勇気づけられる歌でした。
何のジャンルに生きる人でも、夢を実現してなくたって、キラキラのかけらが残ってる人は輝いてみえます。短歌な人々の中には、キラかキラキぐらいまでいっちゃってるすごい人もいて、そんな人と普通に会えちゃったりすることに驚きつつ、とても楽しいこの頃です。